工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

若紫 ヒカルが地球にいたころ③ 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

ミステリアス現代学園ロマンス

情報

作者:野村美月

イラスト:竹岡美穂

ざっくりあらすじ

次のヒカルの心残りはなんと、小学四年生の美少女・紫織子だった。話を聞いていくと、見た目によらずしたたかだった彼女の振り回される内に、ロリコンの嫌疑を掛けられ、周囲に白い目で見られることとなっていく。その間にも紫織子は大金を稼ぐために色々なことをしているらしく……

感想などなど

式部帆夏に好きだと言われた第二巻では、虐めにより不登校になってしまった夕雨を救い出した是光。そして抱いた人生で初めての恋は、彼女が親のいる海外へと旅立つことで終わりを告げた。

きっとヒカルには夕雨を救えなかっただろう。なにせ家に閉じこもる現状を、ただただ幸せと感じ、外に出る必要性というものを感じていなかった。外に出るという行為が、それ則ち救いにはならないと考えていたから。

是光にしかできない最高の救い方で、「あぁ、やっとヒカルも成仏できるね!」という風にはならないのが本シリーズである。また一癖も二癖もある闇を抱えた女性が登場してくる。

……今回に限っては、女性というより幼女という方が正確か。そういうと顔に爪を立てられかねないが。

 

今回のヒカルの心残りの相手は、紫織子という小学四年生の女の子である。女性であれば誰であろうと手を出すというヒカル自身の言葉は、決して誇張表現ではなかったらしい。年齢の壁も彼にとっては障害にすらならないということなのだろう。

ヒカルと彼女の出会いというのも、中々に酷い。

紫織子はそこら辺にいるオジサンに、自身の処女を売りつけようとしていたら、ヒカルがどこからともなく現れて、その処女を数千万円で買ったことで仲良くなったらしい。何だろう、一人で書いているのに気まずい。子供との性行為は相手の合意に関係なくお縄である。

安心して欲しいのは、ヒカルは実際には手を出してはおらず、数年後に抱くという契約のようなものを結んだということであるらしい。まぁ、一応これなら逮捕はされない……ということなのだろう。ドン引きするだけの理由としては十分であるが。

しかしヒカルのヤバさだけでなく、紫織子という小学生のヤバさにも注目して欲しい。小学四年生がいきなりバージンを売る、と言い出すことの恐怖を。

「この子はバージンの意味を分かってないんだな」という期待は抱くだけ無駄だ。バージンが意味するところと、それを売るということは何をするということを意味するかまで知っていて、さらにはその先「子供との性行為は駄目」という法律の問題まできっちりと理解しているのでたちが悪い。

物語の序盤、紫織子と是光が顔を合わせのシーン。紫織子に泣きそうな顔で連れて行かれた場所はプールのシャワー室。すると途端に紫織子の表情が変わり、まるで是光に無理矢理連れ込まれたような写真を撮ることで、「これをばらまく」というように是光を脅す。こうして彼は彼女のペットとなってしまった。

残念だが是光の女性運というものは相も変わらず悪いらしい。そろそろお祓いでもすべきかもしれない。

 

女の子であるという特性をフルに活用し、彼女は悪逆の限りをつくしていた。連れ込んで脅迫はまだ優しい。温厚そうなオジサンにぶつかって触られたと泣きわめき金銭をせびる……などなど。割と洒落になっていない。

当然、是光はそれを止めようとする。しかし彼も脅迫されているペットに過ぎない。邪魔をするだけで、行動を止めさせるための強硬手段には出るに出られない。

ここまで読んでいると、ヒカルの「本当は良い子なんだよ……」という台詞に信憑性もなくなっていく。良いところを探す方が難しい。

しかし、その彼女の印象というものが一変するイベントがある。紫織子と一緒に暮らす祖父と顔を合わせたことだ。どうやら彼女に両親はおらず、二人で暮らしているらしい。

「同情を誘おうったってそうはいかない」という強情な読者も多いことだろう。しかしこの祖父というのが、どうにも違和感がある。祖父が紫織子を呼ぶとき、リコと呼ぶのだ。

紫織子がリコ? どこをどうすればそうなるのだろうか。また祖父は友人の借金の保証人になったが、その友人に逃げられたという過去が明かされ、さらにさらに両親はとある犯罪によって有罪を言い渡されたことまでも明かされていく。

このシリアスの詰め合わせのような情報が怒濤に押し寄せてくることで、紫織子のこれまでの行動の真意や考えというものが理解できるようになっていく。ヒカルの言葉だって決して嘘ではなかった。

紫織子は、本当の本当に良い子だった。

 

今回のラストはミステリ色が強めになっている。ミステリということを全く意識していなかったブログ主はかなりの衝撃だった。是光……いやヒカルの推理が冴え渡ることで、これまでの断片的な情報が組み合わさっていく感覚は心地良い。

このシリーズは巻が進むごとに面白さが増している気がする。この作者の醍醐味は、登場人物が増えて、複雑な人間模様であるようだ。次巻への期待というものも否応なしに高まっていく。最高だった。

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻
作品リスト