※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 15
ざっくりあらすじ
自分に押しつけられた殺人の罪を逃れるため、本当の犯人である羽山郁斗を騙して、犯罪の証拠を奪い取る計画を立てる。それが上手くいったかと思いきや、妨害するかのように現れたヤクザ達。勝負は一旦リセットされ、新たなゲーム・ファラリスの吠える雄牛に挑むことに。
感想などなど
第一巻の何も知らない弱者だった梶君が、すっかり強者の顔になって……と子供の成長を見守る親みたいな感じになってしまっていた第十四巻。連続殺人鬼にして、殺した人間の歯を入れ歯にしている狂人の羽山郁斗から、殺人の証拠となりうる件の入れ歯を回収するところまで成功した。
もはや勝ちである。梶くんの演技もさることながら、死の売人・カールさんの演技も冴え渡っていた。作戦も申し分なしにド嵌まりしており、疑われる様子もない。
しかし、その裏では羽山郁斗の父親が、息子の連続殺人を隠すために躍起になっていた。
息子が殺人をしているということを、父親は当然のように把握していたようだ。そして持ち前の財力と、金を払えば動く極道の人間を引き入れて、息子の犯罪を上手いこと隠すようにしていたらしい。
そんな父との交渉の場に立って、息子の犯罪隠しに協力するように持ちかけられている極道は鞍馬蘭子(ハングマンの時に画策していた女性の人)とその部下・レオ、滑骨種美とその部下の計四人。
鞍馬蘭子と滑骨種美は、どちらが屑の父親の依頼を受けるかで揉めていた。どちらも依頼人である男の金を貪り尽くすために、色々なことを考え、舌戦を繰り広げている。それを眺める父親の表情は暗い。
なにせこの場に彼の味方はいないのだ。息子の連続殺人を隠すという仕事は、極道くらいにしか依頼できない。だが、その極道は男の財産を全て絞り尽くすつもりで交渉に乗ってきた。
息子の殺人が公になれば、自身の経歴に大きすぎる傷が付く。しかし、このまま隠し通すにしても自分の財産という財産の全てが奪われてしまう。その意気消沈振り、どっちに進んでも地獄という彼の胸中は推し量るべきだ。
そんな時である。梶が羽山郁斗の前に現れて、証拠を奪っていこうとしていたのは。
これは鞍馬蘭子にとっては都合が良い事態であった。そもそも父親に依頼された殺人の証拠隠蔽も断っているような人間だ。殺人だけはしない、唾棄すべき行為という倫理観が彼女にはある。
そこで梶と羽山郁斗(とカール)で再試合させ、次は入れ歯よりももっと確実な証拠を賭けたゲームを行うことにしたのだ。
そのゲームの名は、『ファラリスの雄牛』
これは青銅で牛を形作られた拷問器具の名前であり、空洞となっている中に人間を入れ、下から炙ることで焼き殺すことができる。その中に入る ”時間” をルールに則って決めるのだ。
ゲームのルール自体はかなりシンプルである。
使う道具はストップウォッチ付きの腕時計のみ。一人がその時計のストップウォッチを合図と共にスタートさせ、同じく合図と共にストップさせる。もう一人は、そのストップさせた時間を答える。
ここで答えた時間と、実際の時間で生じた誤差は、合計誤差タイムとしてストックされていく。それをプレイヤーを入れ替えて、交互に繰り返していく。
一巡した段階で、答えた時間の誤差が最も少ないプレイヤーが、合計誤差タイム分だけ相手を『ファラリスの雄牛』に入れる権利が与えられる。この権利を行使しない場合は、合計誤差タイムだけはそのままに、もう一巡だけ同じことを繰り返していく。
漫画だとイラストで分かりやすいが文章だと分かりにくいかもしれない……上の文章はかなり噛み砕いて説明しているつもりだが。もっとざっくりと説明すると、正確な体内時計を持ち、相手がストップウォッチを止めた時間を正確に答え続けることができて、相手が正確な時間を答えることができず誤差が大きければ、その誤差分だけ『ファラリスの雄牛』に入ることになる。
ここに騙し合いの要素はない……かに見えた。
羽山郁斗は何かをしている。そもそもこのゲームは彼が提案したゲームだ。これまでも馬鹿な債務者を相手してやったことがあると語っている。ゲームに慣れているという以前に、絶対に勝てるだけの策があるのではないか?
そう分かっても、梶は『ファラリスの雄牛』に入ることになるのだが、彼は生きて帰れるのだろうか。緊張感一杯の戦いが幕を開ける。