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【漫画】嘘喰い16 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

至高の騙し合い

情報

作者:迫捻雄

試し読み:嘘喰い 16

ざっくりあらすじ

死の商人・カールが12分もの時間、ファラリスの雄牛の中に入ることに。このままゲームを続行して、梶には勝つことができるのか。ゲーム・ファラリスの吠える雄牛、ついに決着。

感想などなど

12分という短いようで長い時間、ファラリスの雄牛に入れられて、カールさんが焼かれてしまう。きっと中は想像を絶する地獄だろう。皮膚は焼かれ、熱せられた空気は呼吸を許さない。息をするために外と通じるパイプを通して、牛が鳴いたような声が響き渡る。

外にいる梶は、カールを助けようとしたため、紐で縛られ口を封じられた。ただ見ていることしかできないその光景、一読者としても生きている心地がしなかった。カールは死の商人として、武器を売り捌き、間接的に多くの人間を殺してきた。たとえ法が許したとしても、倫理観は彼の行為を許すことはないだろう。

いずれ彼の下にも爆弾が落ちることになっていた。それが今なのかもしれない。

カールの過去の回想と共に、カールが焼かれていく様子が描かれる。覚悟していたとはいえ、心に来るものがある。それでも最大限の努力をして、カールさんは息も絶え絶えの状態で外に担ぎ出される。どこからかやって来た救急車に連れて行かれ、彼は生死を彷徨っている。

そんな光景を高笑いしてみている羽山郁斗。こんなことをしても、彼はこれから先も罰せられることなく、罪を重ね続けることのできる特別な人間だと思っている。

梶よ、この男に断罪を下してくれ。そんなことを読者が考えるだろう時、カールのこれまでの言動、これまでのシーンがよみがえっていく。

どうやら梶は何かに気付いたようだ。読者と同じ立場だった梶が……ここから梶の仕掛ける罠、その見事な逆転劇が描かれていく。

 

ファラリスの吠える雄牛には必勝法がある。

このゲームは相手がストップウォッチを止めた時間が、1秒単位で正確に分かれば絶対に勝てるのだ。そこで駆け引きが起きないため、ゲーム性はかなり低い。負けた時の代償が拷問器具でなければ、バラエティ向きのゲームだともいえる。

なにせルールが複雑じゃない。1秒単位で時間を当てることなど普通はできないのだから、そこそこにギャンブル性がある。となると絶対的な強者も生まれにくく、ギリギリまでどっちが勝つか分からないドラマ的な要素も生まれやすい。

そう、このゲームで勝ち続けるなど普通は無理だ。だが、その無理を可能にして、これまでに幾度となくこのゲームを行い、勝ち続けている人間がいた。それが羽山郁斗である。

そこにイカサマの存在を疑うというのは必然であろう。だからこそ、彼に協力者がいると考えていた訳だし、周囲に目を光らせていればそのイカサマも見破れると思っていたし、カールさんの時間を正確に測ることができる秘策で勝てると踏んでいた。

しかし、梶はイカサマに気付かなかった。

そこに仕組まれたイカサマは、一番最初――ゲームが行われている屋敷に入ったその瞬間――気づくことができなければ、ゲームで死んでしまうまで分からないようなトリックが使われていた。

トリックを知った時の納得感。読み返して見ると、ずっと伏線は貼られていたのだ。そして、羽山郁斗という人間の性格の悪さが滲み出る展開に、鳥肌が立ちまくりの第十六巻であった。

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