※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 30
ざっくりあらすじ
和向双書房で班目獏と遭遇した鉢名。実は過去にも同じように、二人は出会いギャンブルをしていた。そしてそこから既に、屋形越えに至るまでの種蒔きは始まっていたのだ。
感想などなど
記憶をなくした蜂名が和向双書房に辿り着いた。栄羽立会人が亡くなっていて、絵本『はちの王子様』を予約する手筈を整えられない可能性も視野に入れていていたよういだが(むしろその可能性が高いと踏んでいた)、意外にも予約できてしまう。
そして栄羽立会人が現れるべき場所にいたのは、まさかの班目獏だった。
ただそれは班目獏にとっては既定路線だったのだろう。和向双書房を買い取って経営を続けられるようにし、”もしも” の場合に備えていた班目獏。その ”もしも” が起きて駆けつけて、記憶を失ったお屋形様とご対面だ。
そして、過去にも同じような状況となり、『はちの王子様』を巡ってギャンブルが行われたことは第二十九巻で描かれている。この第三十巻はその回想の続き、蜂名と獏がギャンブルをして金やら権力やらを荒稼ぎし、蜂名の正体が判明する屋形越えが行われるまでが描かれていく。
その過程で行われるギャンブルが面白いというのはもちろんのこと、そこで行われたすべてが、これまでに繋がっていく丁寧な布石が見所となっている。
まず最初のギャンブル、その相手はSASAKIコーポレーション社長である。第二十九巻のラストにボコボコにされ金も地位も一夜にして失い、しかしながらその過程すら描写されず、名前すらわからないモブらしき男の父親である。
そんな雑魚の父親ではあるが、社長にまで上り詰めるというだけあって、胆力や計画はなかなかのものだった。彼が提案したギャンブルは、班目獏を呼び寄せた旅館で行うにふさわしいゲーム……ハマグリ対決だ。
ルールは簡単、焼かれるハマグリが開いたとき、身は上と下のどちらについているかを当てるというもの。具体的には、『十個のハマグリが焼かれ、そのうちのいくつ、身が上に付いた状態で身が開くのかを当てる』という内容となっている。
ここだけ聞くと完全な運ゲー、ハマグリの身が上と下のどちらについているのか当てることなど不可能に思う。しかし実際、これを当てる方法は存在する……らしい。そのうえで社長の計画をどう潰して勝つのかが見所となっている。
さて、そんなハマグリ対決を終えた後は、屋形越えが待っている。
この辺りについては、かつて警察庁の地下で行われたラビリンスゲームでちょっとだけ描かれている。班目獏は、勝負のあったビルの真上の空を、何かが通るか通らないかでギャンブルをして負けた。それにより全てを失いながらも、ここまで戻って来た。
しかしその敗北すら、今回の戦いに至るまでの布石だったとしたら……?
負けた時の獏の表情や、その後の彼の姿を見ると、彼のギャンブラーとしての狂気が良く分かる。そして彼は自分が求めるもののためならば負けることだって厭わない。その彼が追い求めた真の戦いが、これから見られるかもしれない。
屋形越えに挑むために必要な500億円は、アイデアルとかいう組織に強奪されたが、それ以外に必要な絡め手といった権力、零號立会人といった条件は揃っている。しかしやはり、500億を失ったというのは大きな痛手だ。
そこに助け舟を出したのは、まさかの蜂名であった。
時間は戻り、蜂名と獏が対面したシーンから――蜂名は獏とアイデアルのリーダーと会談する席を用意し、話を始めた。500億を強奪したアイデアルリーダーと、獏との間で勝負を行い、勝った方と屋形越えの勝負をするというのだ。
後半はその勝負の内容を決めるための話し合い、という名の牽制の掛け合い。誰が主導権を握るのか、どう自分に有利にことを進めるか。もう勝負は始まっているのだ。
この第三十巻では正確な勝負の内容は分からない。「行けば分かる」という弐號の矢鱈立会人の言葉は信じても大丈夫なのだろうか。