※ネタバレをしないように書いています。
至高の騙し合い
情報
作者:迫捻雄
試し読み:嘘喰い 5
ざっくりあらすじ
斑目貘と佐田国一輝による命を賭けた首つり遊戯・ハングマン。二人が選んだギャンブルはババ抜き。佐田国の強気な引きに、追い込まれていく斑目貘であったが……
感想などなど
大まかなゲームのルール説明については、第四巻にて行われていた。が、改めてここで記させていただこう。
まず首つり遊戯・ハングマンについて。
もともとは紙と鉛筆で行うワードゲームで、出題者が密かに思った単語の構成を推理し言い当てるというものだ。回答者が思った文字を言っていき、それが失敗する度に線を一本ずつ追加して絵を描いていく。想定の回数に達した時、首を吊られた絵が完成してゲームオーバーという視覚的に分かりやすいゲームである。
当然だが、この命を賭けた勝負において絵を描いて終わりというはずがない。これら一連のルールを実物で行うのだ。
つまりゲームで負ければ、首吊り装置が一つ、また一つと完成されていくのだ。そしてその装置が完成された時が死ぬときである。実に分かりやすい。
そんな死亡遊戯のカウントを決めるゲームは、みんな一度はしたことがあるであろうババ抜きである。
ババ抜きの説明はいらないかもしれないが、改めて説明する(少しばかりカードの種類が変わるだけで中身は変わらない)。
カードは1から10までのカード2組と、ババ抜きでいうところのババが一枚の計21枚で行われる。シャッフルしたカードを互いに持ち、相手のカードを1枚ずつ引いていって、ペアのカードを捨てる。最後にババを持っていた方が負け。
特殊な点として、このババに代わるカードが五種類あることがあげられる。それぞれ1から5の数字が割り振られ、負けた方――つまりババを最後まで持っていた方は、このババに描かれた数字の分だけ、首吊り装置の行程が進んでいく。
肝心の首吊り装置完成までの行程は11回。ゲームオーバーまで最短で三回のゲームをすることとなる。
……あぁ、重要なルールを説明し忘れていた。
『発覚しないイカサマについては、賭郎は関知しない』
ゲームを天命に任せるようなギャンブラーは二流である。一流のギャンブラーは運の要素を限りなく排除して絶対の勝利を掴む。そのために斑目貘も、佐田国一輝も、互いにイカサマをしている。
それがこのゲームの醍醐味であろう。ババ抜きというシンプルなゲーム。カードを準備していたのは賭郎であるため、第三巻で梶が嵌められた時のように、カードに仕掛けをされたというようなことは考えられない。そのような状況下で、いかにしてイカサマを仕組むか。
その答えは第四巻のゲームが開始する前から、はっきりと描かれている。今となって読み返すとあからさまというか、後になって意味が分かるシーンやコマ割りの多さに驚かされる。
そして同時に思う。気付くわけがないだろ、と。
それほどに佐国田一輝の仕掛けたイカサマは奇想天外だ。チートを使ってゲームに勝とうとしているのと同じだ。負ける方が難しいと言って良いだろう。なにせ『発覚しないイカサマについては、賭郎は関知しない』のだから。
それほどに荒唐無稽なトリックに説得力があるのは、長く丁寧に仕込まれた伏線の多さ、違和感が解消されていく快感にある。そんな気付くはずもないネタにたった一人気づき、むしろ逆に利用した嘘喰い ”斑目貘” はあまりに恐ろしい。
何度も書くが、佐田国一輝の仕掛けたイカサマは負ける方が難しい。途中で佐田国一輝の内心も描かれるが、「ミスはしなかったはずだ」「そんなはずはない」と嘘喰いの言動・状況を冷静に鑑みている。
第四巻含め、二周した自分も断言する。彼はミスをしていない。
ただ相手が悪かった。ミスと思わないような行動の一つ一つを、丁寧に読み取って行くと辿り付く想定しようがない答えに、斑目貘が辿り付いてしまったのだ。彼の天命は結局ここまでだったのかもしれない。
そんな賭け事勝負の裏ではテロリスト集団が慌ただしく動いているし、目が離せない展開が続く話であった。