※ネタバレをしないように書いています。
関係が、少しだけ変わる日
情報
作者:入間人間
イラスト:のん
試し読み:安達としまむら 6
ざっくりあらすじ
安達としまむら、二人の関係が変わっていく日常。
「カレンダーの向こうで」「故郷の犬」「情愛錯綜」「飛翔」
感想などなど
「カレンダーの向こうで」
夏休み早々にしまむら宅にアポなし突撃する安達。電話をする前には確認のメールを入れるのに、家に行くには予定の確認を行わないのはいかがなものなんだい安達君? そんな安達を「じいちゃん家に三泊四日で行くから」と断るしまむら。さすがに場をわきまえて帰宅しつつ、「四日後来るから」という約束を取り付けるちゃっかりとした安達。
この話ではじいちゃん家に行ったしまむらの話となっている。周囲に何もない田舎だが、ボンバーマン大好きなおばあちゃんや麻雀大好きなおじいちゃん、そして何より十年来の付き合いであるゴンという犬がいる。
犬をなでつつ田舎でしかできない体験を……という訳ではなく。描写されるのは、安達や樽見と電話する会話の内容ばかりだった。二人とも毎日のように電話してきて、「一緒にいたい」だの、「しまむらと水着を来てどこか行きたい」だの、願望垂れ流し。それを「そっかー」と聞いてるんだか聞いていないんだかよく分からない感じで返すしまむら。
田舎から戻った暁には、それらの願望をかなえるために安達や樽見が猛奮闘することを、まだ彼女は知らない。
「故郷の犬」
まだ舞台は変わらず田舎、視点はしまむら。犬のゴンと共に過ごす些細な時間を描いている。子供の頃、おじいちゃん家に来たときは、大好きで大好きで帰る頃になって離れたくないと泣き喚いたことを思い出し、隣にいるゴンがすっかり歳をとってしまったことを感慨深く思う。
動物は人より早く年を取り、そして早くに去ってしまう。そんなことを考えてしまう年頃になってしまった。そんなどうしようもない思いを抱えたまま、彼女は安達のいる街へと戻っていく。
そんなしまむらとおばあちゃんの別れ際の会話が好きだ。誰にだってとても優しいおばあちゃんに、
「どうしたらそんな風に優しくなれるかな」
と。哲学じみたことを聞く。それにちゃんと答えてくれるおばあちゃんは、やはり優しい。
「情愛錯綜」
「何色が好きか」という安達の問いに、しまむらが教えてくれた「青と白が好き」という答えを元にして買った水着。それのお披露目会が唐突に開催される。プールに行くわけでもないのに青と白のビキニを着ていた安達。それを脱いで見せつける安達を見るしまむら。安達の肌が白いと褒めるしまむら、やはり彼女は罪な女よ。
そこからなぜか一緒に風呂に入ることになる。ちなみにしまむら母は在宅中である。一緒に風呂に入ることを知り、驚きを隠しきれないようだ。そらそうだ、娘の友達が来たかと思えば水着姿で降りてきて、これから一緒にお風呂に入ると言い出すのだから。
読者からしてみれば攻めたな安達……それにしても一巻のクールな君はどこにいったんだい? と色々と複雑な気持ちになる。第五巻で色々とショッキングな展開が続いた反動だろうか。第六巻では肌と肌が触れ合う距離感にまでなっている。
「飛翔」
女性が女性を好きになったら諦めるしかないのだろうか。心に抱える思いを伝えたとして拒絶されたら安達はどうなるか。第五巻の展開を読み返していただきたい。きっと彼女は生きていけない。
それでも今以上の関係を安達は望んだ。同じ風呂に浸かって、ゆであがりそうになりながら告げた大好きという言葉は、安達の思惑を外れてしまむらにはっきりと伝わっていた。
しまむらは悩む。そうか、安達は私のことが好きなのか……と。めんどくさがりで何かに固執しようとしてこなかった。すぐに過去は過去として記憶の彼方に追いやってきた彼女が、安達のその思いにどう向き合うか。その一つの答えがここで描かれる。
安達は相変わらずだ。好き好きオーラ全開に、彼女を夏祭りに誘った。強い不安に押しつぶされそうになりながら、浴衣に着替えて、母に髪も結んでもらい、戦場へ赴くような感じで家を出た。
安達の想いとそれに対するしまむらのアンサー。尊い話だった。