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探偵はもう、死んでいる。4 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

探偵はもう、死んでいる

情報

作者:二語十

イラスト:うみぼうず

試し読み:探偵はもう、死んでいる。 4

ざっくりあらすじ

名探偵を取り戻すため、カメレオンの種を飲んで覚悟を決めた君塚君彦。しかし、そんなことは本当に可能なのか? 「未来を見ることができる」《調停者》の《巫女》とコンタクトを取るために、ロンドンに飛んだ。

感想などなど

君塚君彦はシエスタが死んでから一年もの間、ぬるま湯に浸かったかのような人生を送ってきた。シエスタの心臓と、かつて一緒に行動したアリシアの身体を持ち、ヘルの人格を内に秘めた属性の詰め合わせ、夏凪渚が目の前に現れてから、彼の生活は慌ただしさを取り戻した。

そして第三巻では、シエスタを生き返らせるという目標を得て、カメレオンの種を飲み込むことで、《暗殺者》加瀬風靡に一撃を喰らわせることに成功した。色々と慌ただしい第三巻であった。

これから君塚が歩もうとしている世界は、それはそれは過酷な旅路となるであろう。

シエスタが自己犠牲の道を選んだシードとの戦い。加瀬風靡が「シードの器となりうる斎川を殺す」という行為によって、世界を守ろうとしたのは間違いではないのだろう。世界に十二人いる《調停者》の役目としては、これ以上ない働きである。

それを否定し、斎川を守りながらシードを倒すという過酷な道を、彼はあえて選んだ。

さて、そうして迎えた第四巻。

結論から言おう。探偵は二度死ぬ。

 

君塚にとっての目標は、「シエスタを生き返らせることだ」と主人公みたいな啖呵を切った君塚。しかし、死んだ人は蘇らない。数少ない希望であった《吸血鬼》が蘇らせたという命は、ゾンビのような死体人形と化していた。

立派な目標はあれど、それを達成する手段がない。これではどうしようもないという状況を打開するために、加瀬風靡は一つの情報を与えてくれた。それはロンドンにいる調停者の一人《巫女》は、未来を見通す力があるというのだ。

彼女に話を聞くことができれば、何か現状を打破する情報を貰えるかもしれない。

しかし、《巫女》は誰にも姿を見せない調停者とされているらしく、《暗殺者》であっても会ったことはないらしい。そんな相手に、君塚は会うことができるのか? 甚だ疑問ではあるが、彼はロンドンへと飛んだ。

その飛行機の中で、再び事件は起こる。

キャビンアテンダントが「お客様の中に探偵の方はいらっしゃいませんか?」と呼びかけてくる。四年前の事件、シエスタと君塚が出会うこととなる最初の事件が記憶をよぎった。

どうやら旅客機の中から、乗客が一人消えてしまったというのだ。上空一万メートルから人が消えることなど可能なのか? 《名探偵》夏凪渚の名推理が光る。

その事件をきっかけにして、ロンドンでの《巫女》との繋がりが生まれていくこととなる。《巫女》がこれまた可愛らしい少女であり、君塚が新たに仲間に加えていくこととなるのだが、それもまた彼の巻き込まれ体質がなせる技ではなかろうか。

彼女の協力もあり、シエスタを生き返らせるという可能性があることを知った。そしてシードの次の狙いも分かった。シードに好き勝手にされたこれまでとは違う。一転攻勢、ここからは攻める。

《暗殺者》の下で修行するシャル、コウモリの下で修行する斎川。正式に《名探偵》となった夏凪。そして、《名探偵》の助手に返り咲いた君塚。《巫女》も加えて華やかなパーティとなった。

さて、彼らはシードに勝てるのだろうか。決着はその目で読んで確認して欲しい。

 

ここまで読んで改めて思う。この作品はセカイ系なのではないだろうか、と。

世界の敵というワード。そしてそれを食い止めるための調停者という存在。それは世界を守る一種のシステムのように思われた。君塚という一般人(?)の行動や感情が、周囲を巻き込み、世界全体へと波及していくのもまた、セカイ系と合致しているように思う。

この作品をミステリーという枠組みに当てはめる人は、あまりいないであろう。推理要素はないと言っても過言ではない。シードという地球外生命体が生み出した設定を、これまでシエスタが解き明かしてきた軌跡を元にして詳らかにしていく。

そして、それを元にして弱点を解き明かして倒す。その時、セカイは一度救われると思う。だが、これから先もきっとセカイは危機に晒される。

シエスタの復活と、セカイの救いが等号で結ばれることを、一読者として願わせていただこう。

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