工大生のメモ帳

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涼宮ハルヒの退屈 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

語り継がれる伝説

情報

作者:谷川流

イラスト:いとうのいぢ

試し読み:涼宮ハルヒの退屈

ざっくりあらすじ

夏休みを挟んだ半年間。つまりは涼宮ハルヒが憂鬱だった春から、涼宮ハルヒの溜息が途絶えなかった映画撮影に興じた秋にかけて、SOS団が引き起こした様々な事件を綴った短編集。

感想などなど

「涼宮ハルヒの退屈」

涼宮ハルヒは退屈していると、荒唐無稽な願望という奴を垂れ流しにして、周囲に迷惑をかける何者か(神様だったり特異点だったり呼ばれているが詳細は不明)である。危うく世界を作り替えそうになった憂鬱な日々が終わって、夏休みに突入しそうになっていた頃合いに、涼宮ハルヒは退屈していたらしい。

そんな彼女の宣言に則って、SOS団は地元の野球大会に参戦することとなった。四人しかいないメンバーで、どうして参加することになったのかの理由については、涼宮ハルヒが退屈していたからに集約される。

これから先の物語において、それらの原因は「涼宮ハルヒが退屈していたから」なので覚えていて欲しい。

とはいっても、ただ野球大会に参加するだけならば、世界を滅ぼそうとはしないであろう。物理学をねじ曲げ、時空を歪ませ、天変地異を引き起こす心配もないだろう。心置きなく野球大会に参加し、負けてくれば良いのだ。

というキョン含めた面々の理想通りに、事態が進んだことは、これからも、これまでもないことを約束する。

野球大会の一回戦目の相手は、この大会に懸けているらしい大学生チームとの対決。その気合いの入れ方はかなりのものだ。それに対するSOS団メンバーの内訳は酷いもので、高校生と小学生(キョンの妹)、その中で野球経験者は微々たるものという勝てるビジョンが見えない構成となっている。

当然ながら、ボロボロに負ける。そもそも塁に出ることができる者がハルヒだけで、相手はバンバン打ってくるのだから。

そんな状況の中、ハルヒの機嫌が悪くなっていく。そして作り出されるは最大規模の『閉鎖空間』というオチ。このままいけば、憂鬱な出来事の繰り返し。まーたキョンがキスする羽目になる。

勝つために長門の力を借りたキョンと小泉一樹。そこから始まる滅茶苦茶無双には乞うご期待である。

 

「笹の葉ラプソディ」

七夕を御存知だろうか。七月七日、天の川を隔てて離ればなれになってしまった織り姫と彦星が、一年に一度だけ会うことが許された日であり、人々はそんな二人に願い事を捧げるというものだ。

捧げる一般的な方法としては、笹の葉に願い事を書いた短冊を吊すというシンプルなものだ。だからこそ、ここまで一般に浸透し、小学校・中学校・高校や商業施設でも催されることのある数少ないイベントとして数えられている。

かくいうハルヒも、この七夕にはご執心であるらしく、SOS団としての七夕を企画した。学校裏の竹藪から竹を強奪し、無理矢理にでも文芸部室に持ち込んで、短冊を書かせた。

しかし、ここからがハルヒ節が炸裂する。

そもそも織り姫と彦星の元に願いが届くことで、その願いが叶うとされている七夕。そんな織り姫と彦星は、ベガとアルタイルという星を指している。この星と地球との距離はそれぞれ二十五光年と十六光年である。

そこからハルヒは、短冊に書いた願いが届くのは、それぞれ二十五年と十六年が最低でもかかるのだから、今ここで書いた願い事はそれくらい先になってから叶うということ(ちなみに往路は計算しないとハルヒは語る)。それを考慮した願い事を綴るべきだとハルヒは語る。

みんながそれぞれの ”らしい” 願い事を書き綴り、読者も色々なことを考える。過去のハルヒも、同じようなことをしていたのだろうか……と。そんなほんわかした部室での一幕が終わると、まさか朝比奈みくると共に過去に飛ばされるなんて予想していた者がいただろうか。

どこかしんみりとした寂しさのある、『ハルヒが北高に来た理由』が分かるエピソードであった。

 

「ミステリックサイン」

SOS団のHPは、実際に存在する。ラノベの中だけという訳ではなく、公式で作られたものだ。そのページの中央に、奇妙なエンブレムのようなものが描かれており、それがハルヒ画伯による作品であるということは、このエピソードを読んで貰えば分かる。

そんなエンブレムによって引き起こされた、奇妙奇天烈な事件の顛末が描かれていく。

事件の始まりは、SOS団に「失踪した彼氏の捜索をして欲しい」という内容の相談が、朝比奈みくるの友人である喜緑さんからあったことから始まる。話を聞いていくと、どこでもあるような内容に見えて、たしかにどこか奇妙なところのある不思議な話であった。

家族は海外で暮らしており、現在は一人で暮らしているという彼。真面目な生徒であるらしいのだが、テスト前になっても何日も学校に来ない日が続いていた。携帯にかけても電話に出ない、夜になっても部屋の明かりが点いていない。部屋にいる気配がそもそもない。

ちなみにこの彼、コンピュータ研の部長である。

PCを強奪された可哀想な彼であったが、こんなに可愛い彼女がいたのかと憤慨する読者もいたことだろう(それほどに喜緑さんは可愛い)。そんな彼の部屋に入ってみると、なんとそこは『閉鎖空間』になっていたのだ。

……ハルヒのエンブレムが起因していることは、メタ的な読み方をせずとも何となく分かる。だが、それに対する皆の行動が、このエピソードにおけるキーなのではないだろうか。

結局、みんな誰かと何かを共有したいのだ。

 

「孤島症候群」

アガサクリスティーの名作「そして、誰もいなくなった」が好きだ。今となっては古風なミステリーとして、あまり書いてくれる人もいなくなってしまったクローズドサークル(孤島や雪山といった外から隔絶された環境で起こる事件のこと)である。

そんなクローズドサークルのミステリーが、このエピソードでは描かれる。

小泉一樹の知り合いの持っている孤島にある別荘に、ハルヒ達も招待された。夏休みをそこで満喫できるかと思えば、そこの主がナイフで刺されて殺されてしまう。そんな事件の(いろいろな意味での)解決を、目指していくという内容だ。

ただし名探偵はいない。涼宮ハルヒが珍しくしおらしくして可愛らしい本エピソードを、ミステリーとくくるのはお門違いな気がするが、様々な意味でのドンデン返しが多数用意されている。そこにはミステリ的要素も、SF的要素も多分に含んでいるため、ブログ主としては興奮冷め止まなかった。

第三巻の締めを飾るに相応しい話であった。

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