※ネタバレをしないように書いています。
魔王(演技)
情報
作者:むらさきゆきや
イラスト:鶴崎貴大
試し読み:異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術 (9)
ざっくりあらすじ
剣聖・ササラの指導で、人族としての限界を超えたレベルアップを遂げたディアブロ。そしてついに多くの魔王を吸収した大魔王が、とうとう人族を襲い始める。
感想などなど
剣聖・ササラとの訓練は、何だかんだで楽しいものでした。レベルアップのために不味い実を喰いまくっていたり、ササラの師匠――つまりは先代の剣聖が猿になって襲ってきたりと、波瀾万丈の訓練模様ではありましたが。
ディアブロが人族としての限界を超えることができ、戦士としても立派になったことは、大変に喜ばしいことです。しかし、それに加えてササラが剣聖としての更なる高みに登ることができたこと、父との因縁を晴らすことができたこと……それらも一読者としては喜ばしい限りです。
これからも彼女には、山頂の剣聖の庵で蕎麦を振る舞い続けて欲しいです。ついでに、修行に来た人達をボコボコにし続けて下さい。
さて、そもそもディアブロが限界を超える必要があったのは、多くの魔王を吸収した大魔王が現れるため。時期や場所などは何も分かっていませんが、とにかく自身の強化が急務でした。
それが一段落付いた頃合いでした。城塞都市ファルトラを魔王軍が襲おうとしているという報せが入ったのは――。
この第九巻で描かれるは、人族と魔族の本当の戦争である。
ファルトラの主君・ガルフォード、ジルコンタワーの領主・ラムニテスの二人が、魔王軍を迎え撃つための準備をしていた。そこで話に上がるのは、やはりディアブロのことであり、彼がいるのといないのとでは大きく戦況を左右するぞ、と語っている。
魔王軍に対する手札の一つとして、ディアブロ個人が語られていることの重大さ。第一巻の頃からは考えられない。そして、すぐにでも彼に来て欲しいというのには、少しばかりの不安があったからなのかもしれない。
城塞都市ファルトラには、魔族が中に入ることのできない結界が張り巡らされている。そもそも戦争とは名ばかりの籠城戦となり、外部からの援軍を頼りにした戦いとなることが想定されていた。だからこそ、都市には大量の食料が備蓄され、住民が食うに困らないように準備されていた。
だからこそ、兵士達もたかをくくっていたのかもしれない。結局、魔族は中に入って来られない。中に入れば安心だ、と。
だが甘い。魔族がこのタイミングで、わざわざ城塞都市ファルトラを狙って来たのには、あの結界を越えられるだけの策があったのだ。
魔族は巨大で不気味な筺を持って進軍していた。その筺がファルトラを前にして解き放たれると、目映いばかりの光とともに光線が放たれ、ファルトラの結界を消し去ってしまったのだ。
筺に入っていた大魔王が、長い時間をかけて魔力を溜めることで発射することのできるという《大魔王砲》が炸裂したのだ。
そして雪崩れ込んでくる魔族の大軍。逃げ惑う住民。立ち向かう冒険者達。
ガルフォードは強かった。一切の油断なく、最大限の努力で魔族をなぎ払っていく様は圧巻であった。ラムニテスも強かった、その技で敵を一気に屠っていく様は、美しくもあり、領主としての誇りも感じられた。エミールも強かった。ガルフォードに揉まれ、剣聖に揉まれ、確かに彼は強くなっていた。クルムも流石は魔王というだけあって強い。魔王が人の街を守るために戦っているという状況には、少しばかりの感動すら覚える。
しかし、魔族の戦力と大魔王の力量は、それらをあっさりと粉砕するだけの圧倒的な力を持っていた。
早く来てくれ、ディアブロ! そう、まだディアブロは来ていない。
ヒーローは遅れてくるものなのだな、と思った。
そして、ディアブロ対大魔王の戦いは、絶望の中に垣間見える希望の光のように思えた。これまでの戦いも、レベルアップも、死んでいった者達の犠牲も全てが無駄では無かったのだ。
そして、大魔王は消失する――そう人族の勝利である。
しかし、この時点で第九巻のおおよそ半分くらいの尺である。テンポの良い作品は好きだが、これだけで魔族との戦いが終結するのか? というメタ的な予想をしてしまう。そして、そういった予想は最悪な形で的中してしまうのが世の常だ。
後半は大魔王が残した最低で最悪なトラップが発動する。ディアブロにとっての本当の戦いは後半から始まる。
二転三転する展開と、シリアスとエロが混じり合った第九巻。最高でした。