工大生のメモ帳

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賢者の孫 常識破りの新入生 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

えっ、この程度で!?

情報

作者:吉岡剛

イラスト:菊池政治

2019年春アニメ:第一話第二話第三話第四話

ざっくりあらすじ

仕事に勤しんでいた俺は帰り道、シン=ウォルフォールドとして異世界に転生した。その異世界では魔法が使われており……。

感想などなど

読んだ感想を最初に一言で書かせていただく。

多くの人々が想像する「小説家になろう」のテンプレが詰まった作品だった。あまり「小説家になろう」作品を読まない自分にとって、かなり衝撃的なことが多かったので、簡単にまとめていこうと思う。

 

まず異世界転生ということは現世で一度死ぬ必要がある。車に轢かれたり、誰かを庇ったりと死ぬ理由は多数思い浮かぶが、本作では死に方が分からない。

一ページ目をめくったら気づいたら死んでいた。車に轢かれたっぽい描写があるのだが、主人公が吹っ飛ぶ様子も、血を流して苦しむ様子も全くない。恐らく安らかに、一瞬で死んだのだろう。

現世の描写は千字もない。仕事をしているようだが、何をしているのか分からない。名前も年齢も、人となりも、現世の要素を一切省いている。転生する必要があるのか? と疑問に思わなくもないが、前世の知識は少なからず役立っているような感じがしないでもないので、前世から転生してくる必要はあったのだろう。

こうして唐突に始まった異世界ライフは、恐ろしいまでにストレスフリーな展開の連続だった。

 

まず最初に異世界に転生した赤子の主人公を拾ったのが、その世界では最強の英雄として称えられている賢者だった。これが主人公無双の物語の始まりである。ここで「賢者の孫」というタイトルも回収されていることが分かるだろう。

人が多く住む国とは離れた森の奥深くで住む賢者様に育てられた主人公は、特にすることもないので魔法を教えて貰う。そうしている間に、いつの間にやら師匠を超えていた。

……ふぅむ、この森で賢者と過ごす十五年間という長い期間は、努力する描写があるようで全くないので、『いつの間にか越えていた』という表現が個人的にはしっくり来る。

そんな彼は十五歳で成人を迎えるという異世界のルールに則り、独り立ちしよう……とするのだが、彼には一つ大きな問題があったのだ。

『恐ろしいほどの常識の欠如』

現代社会でも森で十五年過ごしていたら常識は身につかないだろう。このまま彼を世に放ったら問題が起こることは、想像に難くない。なにせ獰猛な野生生物を軽く倒し、一国を滅ぼしかねない魔法を使うことを普通だと思っているのだ。

そんな彼に常識を教えるため学校へ送ることになり、ここからが物語の本番となる。

 

この作品の特徴として「ストレスフリー」が上げられる。

初めての硬貨を貰い、街へ繰り出した主人公は路地裏で男達に絡まれる女の子を助ける。彼女――シシリーがメインヒロインであり、この出会った時点で両思いとなっている。シシリーが可愛いらしいことしか分かっていない読者は、置いてけぼりを喰らい困惑するが、それはまぁいい。ご都合展開は小説のお約束だ。今後きちんとヒロインを掘り下げてくれれば問題はないだろう。

この作品では主人公のチート具合を、周囲のレベルを下げることで表現していのだ。

読み進めていると「主人公のライバルになるのかな?」と思われるキャラがでるが、はっきり言って噛ませにもならない糞雑魚で、学園ということで教師もいるのだが逆に主人公に対して教えを請うレベルである。

元々この世界で一番強いとされている賢者が、主人公の言っていることが理解できないというのだから、周囲のレベルはお察しだ。

ではどのように物語が動いていくのかと言えば、主人公が自主的に動くことはない。周囲の人達が常識に則って、悪事やらを働こうとする所に、常識を持たない主人公が関わることで予想外のこと(周囲の人達にとって)が起き、ドラマが進展していく。

 

ページを捲れば『一国を滅ぼしかねない魔法を開発』

さらに捲れば、『歴史を変えかねない魔法を開発』

もっと見ていくと『国を滅ぼす敵を蹂躙』

気付けば『国の英雄になっていた』

……サクサクと進んでいく物語です。個人的には主人公が ”普通” だと思ってやっていることを、周囲の人々が呆気に取られているのに対して、気付かない主人公と、気付く読者の認識の齟齬が、自分はどうしても気になってしまう作品でした。

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