※ネタバレをしないように書いています。
魔女達が目を覚ます。
情報
作者:上遠野浩平
イラスト:緒方剛志
ざっくりあらすじ
霧間凪……炎の魔女と呼ばれ、誰かを守るために戦い続ける正義の味方。彼女に運命付けられた目覚め、もう一人の魔女、まるで幽霊のようなリキ・リィキ・タビの奇妙な言葉……謎の現象に、多くの人々の思いが入り乱れ、世界を巻き込む戦いが始まろうとしていた。
感想などなど
まず最初に言っておかなければいけません。これまでのシリーズを読んでいなければ、本作は絶対に理解できないでしょう。
イマジネーターとブギーポップ因縁の対決を描いた『VSイマジネーター(ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター PART1 感想 - 工大生のメモ帳)』
霧間凪の正義の味方として始まりの物語『夜明けのブギーポップ(夜明けのブギーポップ 感想 - 工大生のメモ帳)』
朱巳と凪の出会いと過去の物語『ハートレス・レッド(ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド 感想 - 工大生のメモ帳)』
ヴァルプルギスの前日譚であり、ビートの冒険譚『ビートのディシプリン(ビートのディシプリン SIDE1 感想 - 工大生のメモ帳)』
……これが必要最低限ですかね。それぞれの登場人物がちょいキャラではなく、しっかりとメイン級に行動し活躍してくれます。初めてのブギーポップシリーズとして、本作ヴァルプルギスの後悔を進めようとしている人は嘘つきなので信用しないように。
というか、ブギーポップシリーズを好きだという人も、シリーズに対する理解が相当に深くなければ、本作を理解することは難しい気がします。「こいつ誰やねん」と突っ込み多数、想像しにくい概念の数々に頭を抱えることでしょう。
炎の魔女である霧間凪を始め、 ”傷物の赤” こと九連内朱巳や、霧間凪に一目惚れしている羽原健太郎、凪の弟である谷口正樹、正樹に助けられた乙女・織機綺、朱巳の部下であることがビートのディシプリンで明かされたラウンダバウト、人間戦闘兵器ことジィド、彼の上司(?)であるパールに犬のモンズ。
これらの人物のことが分からなければ、回れ右してブギーポップシリーズを読み返さなければなりません。幸い自分はブギーポップシリーズ全巻が本棚にあるために無問題でしたが……まぁ、最低限『ビートのディシプリン』ですかね。
そんな本作の感想を書くことはかなり難しい。何せ第一巻ではほぼ始まっていないようなものです。これから世界の存在を揺るがす何かが始まろうとしていることは確かなのですが。
ブギーポップさんが「霧間凪を殺すかも知れない」ということを超遠回りに語ったり、これまで描かれなかった「凪の母親」が何かを隠しているようだったり、物語の裏側を理解しているように動くパールさんが何やら驚いていたり(理解してなかったんすね)と、物語は確実に動いているというのに、目に見えてはっきりとしない漠然とした状況が続きます。
本作初登場。磁場を操ることで金属を動かすドーバーマン。
これまた初登場。個人で薬を売りまくって大金を儲けていた少年・村津隆。
またまた初登場。飛行機事故で死んだ ”はずの” 冥加暦。
……もっと登場人物が増えるんだよなぁ……これはアニメ化無理ですわ。
非日常的な血肉の匂いが漂い、厨二病的なカタカナ言葉が飛び交う会話に、哲学的な概念によって構成された独特な雰囲気……能力者同士が全力出して戦う戦闘シーンは読み応えがあります。
炎の魔女……何故、彼女はそう呼ばれているのでしょうか?
炎の魔女と呼ばれ始めた物語は『ハートレス・レッド』で描かれていますが、その話でのメインとして描かれていた訳ではありません。『夜明けのブギーポップ』ではブギーポップに対して炎の魔女と名乗っていますが、自分から思わず語ってしまったというような気がします。
……そう、誰として炎の魔女と呼ばれる理由を説明できないのです。
そして彼女の強さに関して。進化しようとしていた彼女に、スケアクロウが進化薬を注射(『夜明けのブギーポップ』より)。その事件によって、彼女は正義の味方を名乗るようになります。
そんな彼女は努力によって、MPLS能力者や合成人間に相手取って対等に渡り合えるようになっています。対等……いや、圧倒しているという方が正しいでしょう。正義の味方として彼女はこれまで一度たりとも負けたことがないのですから。
霧間凪が霧間凪たりうる真実と、世界を巻き込む運命付けられた戦いの幕開け……これから盛大に広げられた風呂敷がどのように閉じられるのかが楽しみになる幕開けでした。