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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です9 感想

【前:第八巻】【第一巻】【次:第十巻
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※ネタバレをしないように書いています。

男(モブ)に厳しい世の中です。

情報

作者:三嶋与夢

イラスト:孟達

試し読み:乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9

ざっくりあらすじ

ゲーム第三作における攻略対象の一人が、クレアーレの手によって性転換させられてしまった。それだけならば許容範囲(?)だったのだが、連続殺人事件や、クーデター計画が裏で動いていて……。

感想などなど

第八巻の感想はかなりとっちらかった内容となってしまった。言い訳になってしまうが、そもそも第八巻の本筋事態がかなりぐちゃぐちゃしていたように思う。一応、ゲーム第三作の情報を集めるというのが、ストーリーにおける柱だったはずが、兄の見合いをぶっ壊すという脇道に逸れていき、結局それが本筋に関わってくるのは終わりかけのこと。

第八巻というよりは、第九巻を後編とする前編というような感じだった。物語が大きく動き出し、「この王国って思っていたよりヤベー状況だったんだな」ということを読者もよくよく理解することができるようになる。

第一巻の女性優位な学校生活を思い出して欲しい。女性に振り向いて貰うため、必死こいてダンジョンを探索し、決して余裕のない財産を切り崩してプレゼントを贈っても、それが捨てられる日々を――。

要は男には選ぶ権利がなかった。

就職試験にて、特に入りたくもない企業の面接で嘘をつく感覚に似ている。好きでもない女性をお茶会に誘い、ご機嫌を伺ってプレゼントを贈り、どんなに邪険に扱われようとも笑顔で過ごさなければならず、寝ている間にも精神が磨り減らされていく……うっ、頭が。

しかし、リオンが国を救い、その副産物として女性優位の体制は崩れ去った。

こうして男性と女性が対等な社会が実現された――となるほど人間は甘くない。起きたのは男性と女性の立場が入れ替わるという逆転現象。リオンの同級生、かつて女性に邪険に扱われてきた者達はまだ良い。

かつて自分がされてきたことの辛さを知っている。(一般的な男子学生は)自分たちにアプローチを仕掛けるようになった女性達を、邪険に扱おうとはせず、それなりに考えて答えようとする姿勢が見て取れた。これは良い傾向だ。

注目すべきは、新たに入学してきた男性優位体制しか知らない新入生達の態度だ。彼らは女性は男に傅き、女が男に逆らうことなど許さず、邪魔な女は蹴飛ばしても構わないという価値観を持っていた。

そこまで酷い男は極々一部ということは、せめてもの救いか。体制が変化してそれほど年月は経っていないというのに、ここまでのレベルの男尊女卑価値観が出てこようとは思いも寄らなかった。

そのような環境を形成したのは、元を辿れば全てリオンという外道騎士に行き着く。英雄と称えられつつ、現状のような社会を作り出した元凶であるリオンに対し、少なからず憎しみを抱いている者がいることは、何となく想像できるのではないだろうか。

 

リオンによって没落した者達は多い(全員自業自得なのだが)。女性は相対的に地位が下がったし、戦争において王国に反逆しようとした者達は貴族を追われた。共和国でのクーデターを手引きしていたラーシェル聖王国は、リオンを相当目の敵にしている。その証拠に、聖王国はリオンに日本円にして五億の懸賞金をかけた。

これまでも命を狙われることは多かったが、巻を進めるごと倍々ゲームのように敵が増えている。そんな敵達からの復讐が、第九巻では火を噴くことになる。

その布石の第一段階として、国内で連続殺人事件が発生した。そのターゲットとなったのは、リオンが戦争に勝利した後、国の要職に就いた者達の中でも優秀な者達ばかりが殺された。

これは職を追われた者達の復習――と単純な事件ではないことを、リオンの相棒・ルクシオンは告げる。現場には魔装による攻撃の痕跡が残されていたのだ。

魔装とは旧人類(ルクシオンやクレアーレといった人工知能を開発した高度な科学技術を擁する人類のこと)が目の敵にする新人類が開発したモビルスーツのような装備のこと。いわばロストアイテムである。

そいつがルクシオンやクレアーレの情報収集を妨害しているというのだから、魔装がリオン達に牙をむいているということは確定的。ルクシオン達を妨害しているということは、人工知能のことも知っているという可能性が高い。

敵として、これ以上に厄介な存在はいないであろう。

やばいのは連続殺人事件だけではない。ゲーム第三作における主人公ミアは、ヴォルデノワ神聖魔法帝国から留学にやって来て、攻略対象と出会い、恋に落ちてアレコレする。

攻略対象の一人が女性になってしまったのは……不味いけれど、なってしまったのは仕方がない。他の攻略対象と仲良くなってくれれば良い。しかしながらゲームでは一人でやって来るはずだったミアが、専属の騎士【フィン・レタ・ヘリング】という男を侍らせていたのだ。

ただでさえゲームとは違う状況になっているのに。

さらにさらに攻略対象達が攻略対象同士で仲良くなっていくという意味不明な状況。「なんだこれ」……いや、マジでなんなの……。リオンの心労を考えると、投げ出したくなる。

連続殺人は解決しそうにないし、クーデター準備は裏で着々と進められているし。

王国はボロボロである。英雄にはまた頑張って貰うしかないらしい。外道っぽさは薄めの第九巻、むしろあんたは良くやったよ……と褒め称えたい戦いであった。

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