工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

ブギーポップ・チェンジリング 容暗のデカダント・ブラック 感想

【前:第一八巻】【第一巻】【次:第二十巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

※これまで(出版順)のネタバレを含みます。

心に誰もが持つ闇を。

情報

作者:上遠野浩平

イラスト:緒方剛志

ざっくりあらすじ

互いにストーカーの相手を交換した塩多樹梨亜と甘利勇人。

宮下藤花がストーカーされていることを察した風紀委員・新刻敬は探りを入れる。

統和機構の女・舵浦遊麻は重大な任務を託される。

感想などなど

黒。

この色を聞いて何を思い浮かべるだろう。陰や闇といった明るい世界とは対照的な情景を思い浮かべることが多いのではないだろうか。作品の冒頭では、 ”デカダント・ブラック” と呼ばれる敵の能力に関して、哲学的に説明がなされている。

『デカダント・ブラックとは人の心の暗闇そのものだ』(作品内より抜粋)

……。うん。まぁ、何だろう。何となく想像はできるのではないだろうか。

簡単に自分なりにタイトルにも登場する ”デカダント・ブラック” という能力を説明すると『相手の心の闇の濃さを調整することで、操ったりする』というもの。個人的にはあまり強そうじゃないな……と最初は思ったのだが、皆さんからしてみればどうなのだろうか?

実際読み進めてみれば汎用性が高く、応用次第ではいくらでも自分の奴隷をいくらでも増やすことができる危険な能力だと分かる。またブギーポップが探す ”世界の敵” に関して重大な鍵を握っているのも、この ”デカダント・ブラック” の能力者だったりする。

また、登場人物達は度々、自分の心に抱いた正義や鬱憤に関して議論し、考えていく。分かりやすいのは本作で大活躍(?)する風紀委員の新刻敬だろう(『ブギーポップは笑わない』にて初登場)。

風紀委員である彼女は、自分なりの正義を決めて行動している。校則を絶対遵守などは、その分かりやすい正義の典型例だろう。

しかし、彼女の抱く正義というやつは本当に正義と言うべきものなのだろうか。正義があるならば、それとは相反する悪が存在しなければいけない。その悪とは果たして何なのだろうか。

 

本作では二人ほどストーカーが登場する。

まず一人目は塩多樹梨亜。名前から分かりにくいかも知れないが、可愛らしい女子高生である彼女は、同じ学校の番長的立ち位置の男・岸森由羽樹をストーキングしている。彼に関しては……うぅむ、イケメンでいけ好かない奴という認識でいいだろう。

次に二人目、甘利勇人。こいつは何と、ブギーポップこと宮下藤花をストーキングしている。二年間もバレずにストーキングし続けていたというのだから驚きだ。もはや愛を越えて狂気と言っても過言ではない。

そんな二人はある日、互いにストーキング相手を交換することにした。互いにストーキングに限界を感じ、バレるかも知れないという危惧があったからこその対策だ。交換殺人の例えが分かりやすいのではないだろうか。全く面識も学校も違う同性の相手からストーカーされる訳もないか……という油断をついたナイスな作戦である。

そして、塩多樹梨亜は宮下藤花を、甘利勇人は岸森由羽樹をストーキングし、行動から写真、動画に至るまでを共有する仲になった。何とも奇妙な関係性である。ストーキング仲間……できれば関わり合いにはなりたくないものだ。

 

歪曲王……覚えていらっしゃるだろうか。『歪曲王』(ブギーポップ・オーバードライブ 歪曲王 感想 )にて登場。世界の敵……ではあるのだろうが……彼の存在や正体に関しては『歪曲王』を読んで確認して貰いたい。

簡単に自分なりにかみ砕いて説明すると、「ブギーポップと同じような存在であり、誰もが心に抱いている王」だと自分は思う。読んでいく限り自分の認識と大差ないように感じた。結局は哲学的であり、ぼんやりと断定は避けられているので、個人の認識次第だろう。

そんな不可思議な存在、歪曲王がまさかの登場。しっかりと不思議な空間を見せつけてくれる。アニメ化して欲しいけど、まぁ、無理だろうなぁ……。

 

今回の物語では、登場人物一人一人に割り当てられた役割を推理しながら読み進める必要があるように思う。そこで大切になってくる概念が、デカダント・ブラックであり、心に誰もが抱く闇の存在だ。

風紀委員である新刻敬だって心に闇が存在する。ストーカーの二人だって闇が存在するし、統和機構で改造された人間だろうと例外はない。

ではブギーポップはどうか? ブギーポップには ”心” があるのだろうか?

読み進めていく内に、正義や心に関して考えさせられることの多い作品でした。

【前:第一八巻】【第一巻】【次:第二十巻
作品リスト