隠れた名店や、隠れた名曲というように『隠れた』という言葉が付くだけで、どこか特別な感じがする。しかし『隠れた〇〇』と紹介されてしまった時点で、もうその作品は隠れることができていないし、本当の名作というものは発掘され表に出てくることで名作として語られることになる。
前々から『隠れた名作ラノベ』というものを紹介するリストを作成しようと考えていながら、上記のような理由で紹介する作品を決めかねていた。
そこで今回紹介する『隠れた名作ラノベ』には二つの条件を定めることにした。
- アニメ化していない(2020/05/16現在)
アニメ化していたら、その時点である程度のネームバリューは存在することになる。そのため本リストで紹介する作品の条件とした。だが、それだけではまだまだ搾りきるには程遠い。
- アニメ化できるだけの尺がある
おおよそ三巻ほど出版されていればアニメ化は可能だろう。実際アニメ化されるような作品は六巻くらいは続いている印象だが、『アニメ化しようと思えばできるのにされていない』という観点を重視したい。
本記事では、上記二項目に合致している作品の中から、『隠れた名作』の名にふさわしい作品を十個選んだ。
次読むライトノベルを選ぶ際の参考の一つにでもなれば、幸いである。
- 「キーリ」シリーズ
- 「ケモノガリ」シリーズ
- 「世界の終わり、素晴らしき日々より」シリーズ
- 「ダブルブリッド」シリーズ
- 「電波的な彼女」シリーズ
- 「ナイトウォッチ」シリーズ
- 「なれる!SE」シリーズ
- 「ピンポンラバー」シリーズ
- 「Missing」シリーズ
- 「ラグナロク」シリーズ
- 最後に
「キーリ」シリーズ
幼い頃から霊が見えていたため、教会が語る死後の世界をまったく信じていない十四歳の少女・キーリが、先の大戦で猛威を振るった『死ぬことのできない人間兵器』〈不死人〉ハーヴェイと、ラジオに取り付いた幽霊・兵長とともに世界を旅するファンタジーライトノベル。
この小説の醍醐味は、キーリが行く先々で出会う『幽霊達との心温まる交流と別れ』と、人間兵器〈不死人〉が作られることになった背景や歴史といったような『残酷な世界設定』にある。
キーリには母親がおらず、幽霊が見えるという特異体質のために虐められることがあったため、孤独な身の上であった。そんな彼女を支えてくれたのは、皮肉にも幽霊だった。時には悪さもするが、どこか憎めない幽霊達との出会いと別れが淡々と描かれていく。
そして旅を続けていくに連れて、〈不死人〉の作り方や、その成れの果てと出会っていく。戦争が終わったとは言え、この世界の人々は救われていない。このシリーズを通して、キーリの住む星の歴史を理解し、いつしか歴史の目撃者になっていく。歴史の流れというものを、日常で切り取ったような作品だった。
一巻の感想はこちら:キーリ 死者達は荒野に眠る
作者リストはこちら:壁井ユカコ作品まとめ
「ケモノガリ」シリーズ
海外の修学旅行先で拉致された赤城楼木を含むクラスメイト達。犯人達の目的は、『狩り』を称してクラスメイト達を楽しみながら無残に殺すことであった。そんな狂気的な環境で、自身の人殺しの才能を開花させた赤城楼木は、犯人達が所属するグループ――通称クラブのメンバーを皆殺しにすることを誓い旅に出ていくアクションライトノベル。
上記の簡単なあらすじでも分かって貰える通り、めちゃくちゃグロい。人の殺され方は多岐に渡り、惨殺・銃殺・殴殺・圧殺・毒殺・刺殺……この世に存在するであろう殺し方の全てで人がバッタバッタと死んでいく。このリストにまとめておきながら、本シリーズをアニメ化することはおそらく不可能だろう。
そんな本作の魅力は、赤城楼木と、頭のネジが何本もぶっ飛んだような『快楽提供者との戦闘』と、『先の全く読めない展開』にある。
まず快楽提供者というのは、過去のトラウマや生まれ持った素質により、独自の感覚によって人を殺さずにはいられなくなった人間達のことだ。例えば電気をこよなく愛してしまったが故に、人を電気で殺さずにはいられない……といったように。そんな狂気に対してナイフを片手に挑んでいく戦闘シーンは圧巻。一度読み出すと止まらなくなることを約束しよう。
あまりに人が死んでいくので、ヒロインだなと思っていても、相棒だなと思っていても気付けば死んでいたりする。快楽提供者はあまりに狂っているので、赤城楼木や読者の想像を超えた戦いを挑んできたりするので『先の全く読めない展開』というものが続いていく。
そんなシリーズではあるが、ラストはあまりにも華麗にしめてくれた。是非とも読んで貰いたいシリーズとなっている。
一巻の感想はこちら:ケモノガリ
作者リストはこちら:東出裕一郎作品まとめ
「世界の終わり、素晴らしき日々より」シリーズ
突如として人類のほとんどが消えてしまって終わった世界で、コウとチィの二人が旅に出るという冒険譚的ライトノベル。
人類が消えてしまった理由に関しては分からないし、これまで当たり前だった街並みは終わり、崩れかけのビルには銃声が響くけれど、コウとチィはただ必死に生きていく。第一巻ではチィが片手に抱えていたスケッチブックの手がかりを元に実家を探していくものの、見つけたからといって何かが変わるという訳もない。
まるで生きる理由を求めているかのような旅。それでも旅先での出会いがあったり、はたまた恋をしたり、非日常的な風景を前にして行われる日常が美しい。そんな物語のラストシーンは希望に溢れ、思わず笑顔になってしまう。そんな素晴らしい読了感の作品だ。
三巻というアニメ化に丁度いい巻数だというのに、アニメ化しないというのは一体どういう了見か。隠れるべきではない作品だと思う。
一巻の感想はこちら:世界の終わり、素晴らしき日々より
「ダブルブリッド」シリーズ
特異遺伝因子保持生物――通称 ”怪” 。人とは違った遺伝子を有し、人知を越えた身体能力や治癒能力を持った生物達のことを指す。そんな彼らの対処をするために立ち上げられた特殊部隊『EAT』には、怪の血を受け継いだ片倉優樹も所属していた。
白髪あることを除けば外見は人と変わらない彼女は、「怪の対処に怪が参加すべきではない」と語る堅物・山崎太一朗と出会い、同じ職場で働くことになる。全くもってそりの合わない二人だったが、事件を解決していくことで次第に距離が狭まっていく。
本作の特徴の一つに、生々しい欠損表現が挙げられる。怪の血を引き継いでいるということもあり、片倉優樹は拳銃で撃たれた程度では死なない。しかし、血は流れるし、腕はもげる。そんな生々しい描写と戦闘シーンが両立したシーンが続いていく。
シリーズが続くにつれて、一切の救いがないシリアスな展開が続いていくことも特徴と言えるだろう。いや、本当に最後の最後まで気を抜くことが出来ない。殺し合うことでしか分かり合えない関係性や、触れ合うということに対する恐怖心など、これでもかと詰め込まれていく心理描写はアニメ化無理かもしれない。
一巻の感想はこちら:ダブルブリッド
作者リストはこちら:中村恵里加作品まとめ
「電波的な彼女」シリーズ
見知らぬ少女に、勝手に永遠の忠誠を誓われた柔沢ジュウ。墜花雨と名乗る彼女の奇妙な言動に振り回されながら、世間を賑わせる凶悪犯罪に関わっていくことになるサスペンスライトノベル。
このシリーズの一番のポイントは『狂気に満ちた犯罪』にある。この作品を読み進めるに辺り、事件の真相や犯人というものを考えながら読むことになる。が、もしも途中で真相が分かってしまったならば、それはある意味、あなたも狂っていると言って良いかもしれない。
実はファンディスクのような形で第一巻だけアニメ化されているらしい本作。しかしどこの配信サイトに行っても、この作品は存在せず、1クールアニメになってないならリストに入れてもいいかな、と思っていれておいた。少なくとも友人には勧めにくい作品なので、そっと買って、そっと心にトラウマを植え付けることをお勧めしておく。
一巻の感想はこちら:電波的な彼女
作者リストはこちら:片山憲太郎作品まとめ
「ナイトウォッチ」シリーズ
虚空牙と呼ばれる未知の敵から逃れるため、地球を飛び出し宇宙へと向かった人類。しかしそこは暗闇と虚無が続く無重力の宇宙空間。そんな場所に居続けていると、心が壊れてしまう……そこで偽りの世界を作り出し、人類の意識だけを取り出して生活をさせることにした。そんな嘘の空間を守るために、宇宙で虚空牙と戦っている機体の名を『ナイトウォッチ』と呼ぶ。宇宙を舞台にして繰り広げられるSFライトノベル。
作者はブギーポップシリーズで知られる上遠野浩平。本シリーズはブギーポップシリーズと比較すれば知名度はかなり下がるのではないだろうか。しかし面白さはブギーポップシリーズはまた違った形であり、これまでのシリーズを読んでいなくとも楽しめる内容となっている。
三巻で完結され、一巻ごとに場所も主人公も変わっていく。ブギーポップシリーズだけでなく、このようなシリーズにも注目が集まって欲しい。2019年にブギーポップがアニメ化できたなら、「ナイトウォッチもできるよね!」と声高々に叫んでおこう。
一巻の感想はこちら:ぼくらは虚空に夜を視る
作者リストはこちら:上遠野浩平作品まとめ
「なれる!SE」シリーズ
就活が上手くいかず追い込まれた桜坂工兵は、就活サイトで『株式会社スルガシステム』の求人広告を見つける。そこに書かれた「文系出身でもエンジニアとして立派に活躍できます」という文言に釣られ、彼は超絶ブラック企業へと足を踏み入れることとなった。
作者は「ガーリー・エアフォース」で有名な夏海公司。個人的には、本シリーズこそアニメ化すべきだという持論を提唱したい。どうみても中学生にしか見えない上司・室見立華や、超有能ストーカー同僚の姪浜梢など、個性豊かなヒロイン達とおりなす美しきブラック企業の日常風景。(血涙流しながら)笑いあり、(人生に絶望した)涙ありの本シリーズは読んでいて非常に楽しい(錯乱)。
ボイスドラマが作られている程なのだから、アニメ化も無理という話ではないだろう。個人的にアニメ化して欲しいライトノベル上位に君臨し続けている。
一巻の感想はこちら:なれる!SE 2週間でわかる?SE入門
作者リストはこちら:夏海公司作品まとめ
「ピンポンラバー」シリーズ
かつて天才卓球少年と呼ばれていたが、怪我をして引退を余儀なくされた飛鳥翔星。死に物狂いで怪我から復帰した彼は、卓球のエリートが集められた私立卓越学園に入学した。そこでの戦いと成長を描いたスポ根ライトノベル。
卓球というスポーツのリアリティと、エンタメとしての無茶苦茶な設定が上手く入り交じった本シリーズは、手に汗握る試合を堪能できるということを約束したい。スポ根における思春期の高校生特有の心理描写もさることながら、本シリーズの一番の押しは、白熱した試合にあるのだ。
本シリーズではあまり卓球のルールの説明が行われない(ない訳ではないが)。それよりも試合におけるビジュアル的な面白さや難しさに全振りした構成となっている。そのためか、基本的な心理描写や成長も試合と同期して物語に組み込まれていく。
読んでいて楽しいスポーツ小説とは、このことだろう。アニメ化してくれ。
一巻の感想はこちら:ピンポンラバー 感想 - 工大生のメモ帳
「Missing」シリーズ
かつて神隠しから生還した過去がある空目恭一と、彼の所属する文芸部員達が、日常に潜み普段は認識できない怪異に挑んでいくホラーライトノベル。
怪異という存在との日常を描いており、怪異を退治するようなことはない。というか勝てない。怪異はあくまで現象であり、人が退治して操ろうとすること自体がおこがましい。イメージとしては敵と銃でドンパチやりあう洋画ホラー的な要素よりも、どうすることもできないまま死んでいく邦画ホラー的な作品だ。登場人物達の多数が死んだり、病んだり、欠損したり、もう二度と日常に戻ることができなくなることも特徴の一つである……だからアニメ化無理なの?
本作はラジオドラマが存在する。なのでアニメ化できると思うのだが……世の中そう簡単にいかないものである。
一巻の感想はこちら:Missing 神隠しの物語 感想 - 工大生のメモ帳
「ラグナロク」シリーズ
傭兵ギルドを抜けたリロイ・シュヴァルツァーと、信頼すべき相棒である喋る剣・ラグナロクの二人が、旅先で出会う強敵達との戦いを描いたファンタジー小説。
振り回され相手を斬る剣からの視点で描かれる独特な戦闘描写と、リロイとラグナロクの互いに色々言い合いながらも仲の良い相棒感。それこそが本シリーズの魅力と言えよう。敵が扱う武器は多種多様で、読者的にもリロイ的にも飽きの来ないような構成となっているのも有り難い。また、喋る剣に代表されるような世界設定が、徐々に明かされていく過程もアクションに気をとられ過ぎていると驚かされることもある。
個人的にはマイナーと呼べないかな……と思っていて入れるつもりはなかったのだが、ラグナロクで検索しても、元ネタの北欧神話や、アニメの「RAGNAROK THE ANIMATION」が出てくる。それなりに古い作品なので現在の知名度的には、と考え入れておいた。現在でも番外やリブート版など出ているので、追っかけてみても良いかもしれない。
一巻の感想はこちら:ラグナロク 黒き獣(リブート版ではなくオリジナルの方)
最後に
自分なりに「マイナーとは」「隠れた名作とは」を考えながら書いた。異論がある方もいるかもしれないが、このリストはあくまでブログ主が冒頭の条件になぞらえて考えたものである。隠れた名作があるというならば、どんどんと紹介して「隠れていない名作」にしてあげて欲しい。