工大生のメモ帳

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ゼロから始める魔法の書Ⅴ 楽園の墓守 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

『魔法』はまだない

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作者:虎走かける

イラスト:しずまよしのり

試し読み:ゼロから始める魔法の書V ―楽園の墓守―

ざっくりあらすじ

ゼロの書拡散を目論む〈不完全なる数字〉を調査するため、海運国家テルゼムを訪れた傭兵とゼロと盲目の神父。そこにある村では、ゼロを名乗る魔女が率いる集団が現れているというが――

感想などなど

黒竜島では魔法の力を駆使して竜を討伐、(こちらでも)全ての黒幕であったサナレが死霊術を使って死体に乗り移って操作することで干渉してきていることを知ったゼロ達。

彼女が所属する〈不完全なる数字〉の目論みであるゼロの書拡散を阻止するべく、調査を進めることになった。その第一段階として、海運国家テルゼムを訪れた傭兵とゼロと、盲目の神父。

盲目の神父は第二巻、第三巻の一件以来お世話になりっぱなしの強々裁定人である。裁定人というのは、対象が教会にとっての悪を見極め処理する存在であり、彼にとって獣堕ちと魔女は断罪対象である……ただし、ゼロと傭兵は「役立つ情報を引き出せるだけ引き出す」ために放置されている。ツンデレか?

ちなみに海連国家テルゼムを訪れたのは、ゼロが住んでいた森が近いから。また、盲目の神父にとっては、この国に教会の一大拠点である大聖堂があって、黒竜島での一件を報告しなければならないという理由がある。

彼がゼロのことを報告すれば、騎士団が派遣されて傭兵もゼロもお縄にかかることだろう。まぁ、傭兵は抵抗するだろうし、ゼロが本気を出せば国ごと滅びるが。

まだゼロからお役立ち情報は引き出せると判断している神父は、この国においてゼロ達の味方として動き回ってくれる。敵としての彼はあまりに厄介だが、味方となるととても心強い。

頭も切れるし、教会内部の情報に通じている。上からの信頼も厚い。光が強い昼などは戦えないという大きな弱点があるが、逆に暗闇であればあるほど有利ということでもある。

盲目の神父―― ”隠匿” という罪を背負った裁定人。そんな彼とは対照的な、女性の裁定人 ”背徳” がこの第五巻では登場する。

 

教会の掲げる正義が絶対で、その正義執行の任を任されているのが裁定人である。そんな裁定人に正体がバレていながら、生かされている獣落ちである傭兵と、魔法を開発した魔女・ゼロは例外である。

その例外的状況を生み出しているのが、ほかでもない ”隠匿” と呼ばれる盲目の神父だ。彼がそれこそゼロ達のことを教会に隠匿しているからこそ、この協力関係は築かれている。

では、どうして彼はそのようなことをしているのか。

きっかけとしては聖都アクディオスの聖女・リアを巡る一件であろう。ここで腐りきった聖都の実態を目の当たりにし、一時的とはいえ傭兵と協力関係を結んだ。教会にとっての悪を断罪するという命よりも、民を救うという教会の大義名分を選んだのだ。

彼はこの第五巻で「最近まで魔女を人間と知らなかった」と発言している。魔女は悪であるという教会が語った絶対が崩れ、彼なりに悪や正義を決めることができるようになっていた。そのような考え方を改めることになる一件として、この第五巻での事件が大きく関わってくる。

海運国家テルゼムを訪れて真っ先に、この国では魔女狩りが行われているという情報が耳に入って来た。魔女を狩るという目的のためならば、村人を皆殺しにするという教会の姿勢に対し、人々はなすすべがない。

魔女と思われる、似ている人がいるとなれば、それ以上の理由など考えずに密告して殺してもらう。それで魔女狩りが終わってくれることを願って、皆殺しにされる前に何とかしようと躍起になっている。彼らにとって魔女から守って欲しいとか、魔女が悪だということはなく、ただ教会から殺されたくないというだけの話だ。

よくよく話を聞いていけば、魔女がしていたことといえば、村を訪れて作物の収穫を魔法で手伝ってくれただけというではないか。この行為を、教会は悪と断罪し魔女狩りを始めた。

さらに教会の断罪は続く。魔女を見つけ出すために派遣された裁定人 ”背徳” は、村人の半分を生き埋めにして殺した。地面から首だけ出して列をなし、まるで畑のようになっている地獄絵図は、民にとっての希望になりうるのか。

盲目の神父はここに何を見出したのか。手に汗握る戦いと展開が続く第五巻であった。

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】
作品リスト

悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました8 感想

【前:第七巻】【第一巻】【次:第九巻】

※ネタバレをしないように書いています。

ラスボス飼ってみた

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作者:永瀬さらさ

イラスト:紫真依

試し読み:悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました 8

ざっくりあらすじ

クロードの息子を名乗る謎の少年にエルメイア皇国が占拠された。隠し子ではないかという推測が飛び交うが、彼は未来からやって来たクロード夫妻の息子だと判明し――。

感想などなど

ゲームは売れれば続編が作られる。これまで『聖と魔と乙女のレガリア』はナンバリングが4(+FD)まで出ており、それぞれのラスボスを飼ったり、落としたりといった手法で破滅エンドを回避してきた。

それぞれのナンバリングのフラグや設定が混戦し、読み返さなければならない事態も珍しくない本作だが、この第八巻は、比較的理解しやすい方だと思う。この巻で起きる事件は、『聖と魔と乙女のレガリア5』の物語になぞらえていくのだが、アイリーンは本作を未プレイ。読者と似たような視点で事件に巻き込まれていくこととなる。

『聖と魔と乙女のレガリア6』の概要は以下の通り。

アシュメイルにある男子禁制の神女学院を舞台にしているものの、ヒーローは魔竜の封印を管理している地下組織のボス。初代神の娘を信仰する宗教・世界統一教がはやっていたり、学園ものでありながら裏社会に生きているような異色作となっている。

しかし、ここで描かれるはずだった諸問題――物語を動かす事件の元凶達は、既にアイリーン達が解決してしまっているようだ。魔竜が分かりやすい。彼女は元気に生きている。

ちなみにラスボスは保険室の先生にして、世界統一教の教祖にして、関西弁を操る男・エヴァレ(イケメン)。彼の目的は学院の下にある地下遺跡に安置された『神の娘の遺体』を奪取し、魔竜を操って喰らうことで邪神としての力を得ようとしている。

……かなりざっくりとまとめたが、もっと細かな情報については、作中にてアイリーンが箇条書きでまとめてくれているので、そちらを参照して欲しい。物語を読み進めるにつれて、これまでアイリーン達が覆してきた物語の皺寄せの結果を知り、ゲームの知識は生かせないという状況に追い込まれていく。

まぁ、(主にリリアのせいで)これまでもそんな感じだったが。

 

『聖と魔と乙女のレガリア5』との分かりやすい違いは、クロードの息子を名乗るシャルルの登場だろう。クロードの血を引いているんだろうと分かる美形の少年で、その実力も相当なものだ。

なにせエルメイア皇国が赤い結界で覆われ、完全に奪われてしまった。これが出来る奴が、この世界にどれくらいいるか……いや、意外といるのか? そんなことができそうなアシュメイル国王・バアルに助けを求める。

エルメイア皇国脱出の際に、急に現れた謎の少女・エルメアの正体を探るため、アシュメイルにある神女学院に潜入することにしたクロードとアイリーン。そう『聖と魔と乙女のレガリア5』の舞台に乗り込んでいくこととなる。

ここで何が起きて、クロードの息子を名乗る少年・シャルルが現れて国を乗っ取るまでに至ったのか。シャルルの前に現れて彼を止めるような動きをしたエルメアという少女は一体誰なのか。

調査を進めていくと、出てくる出てくる……シャルルが未来から来たのではないかという情報、『聖と魔と乙女のレガリア5』では攻略できないラスボスの目的、これまでフラグを散々へし折ってきたことによる皺寄せを一心に受けて押し寄せてくる。それら全てをひっくり返すための最善策は――『ラスボスを飼っておくこと』。

第一巻を読んでおくとエモい第八巻であった。

【前:第七巻】【第一巻】【次:第九巻】

葉隠桜は嘆かない 感想

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻】

※ネタバレをしないように書いています。

魔法少女の生き様

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原作:玖洞

作者:つくぐ

試し読み:葉隠桜は嘆かない 1

ざっくりあらすじ

神々と契約し、魔獣と戦う力を得た『魔法少女』達は、今日も平和のために戦っている。そんな中、魔獣と魔法少女の戦闘に巻き込まれて瀕死の重傷を負った少年・七瀬鶫は、ベルと名乗る神と契約を結び『魔法少女』になった。

感想などなど

『魔法少女』ものと呼ばれる作品は、星の数ほどある。

それは言い過ぎかもしれないが、アニメ・漫画・小説・ゲームといった媒体のどれとも相性が良く、設定・世界観など多岐に渡る『魔法少女』というジャンルは、「見たことある」が多発するジャンルとも言える。

ブログ主はそれほど『魔法少女』というジャンルに造形が深くない。有名どころは見ていると思うのだが……そんなブログ主から見て、設定一つ一つにはそれほど珍しさはないが、組み合わせや語られる背景にはかなり魅力を感じた。

まず、『魔法少女』が誕生するまでの歴史についてざっくりと説明したい。

始まりは三十年前、突然に空が割れ、そこから凶暴な魔獣がやって来て人々を襲い始めたのだ。日本各地に毎日のように現れるそれは、機動隊や軍隊でどうにかできるレベルを超えていた。

ここで問題なのは、日本にしか現れなかったということだ。もしも日本だけでなく全国規模で起きている事象であれば、世界各国が協力するという未来もあったかもしれない。現実は非情で、日本は完全に世界から孤立した。下手に協力して、自国に飛び火したら嫌だとでも思ったのだろう。

自国の戦力だけでどうにかしなければならない最悪な状況、もうどうしようもないと思った矢先、現れたのが『魔法少女』だった――。

『魔法少女』という存在は、表社会に出てくることなく平和を裏で守るという作品が多いように思うが、本作はちゃんと表に出て戦うヒーローのようなポジションであるようだ。作中では魔法少女個人の専用スレッドがあり、彼女達の可愛さや強さを語り合っている。ヒーローよりもアイドルの方が近しいかもしれない。

『魔法少女』には何故美少女が多いのか、一度くらい疑問に思った方はいるかもしれない。本作はそこにも明確な理由がある。『魔法少女』になるためには、神々と契約する必要があるのだが、この契約を進めるためには神に気に入られる必要がある。まぁ、ルックスが良い方が好かれるよね、という話だ。

『魔法少女』には討伐した魔獣のランクに応じて給金が支払われる。命を賭けて戦うのだ、最低ランクの魔獣といえど、一体当たり七十万円が貰える。一日に何体も現れることを考えると、稼ぎは割と良いのかもしれない。

死と隣り合わせではあるが。

 

魔法少女になるには神に気に入られる必要があると書いたが、条件はそれだけではない。条件の全てが明かされている訳ではないのだろうが、少なくとも条件の一つに、魔獣と戦うために展開される結界の中に入ることができることが上げられる。

そんな魔獣と魔法少女との戦闘に巻き込まれ、結界の中に入って瀕死の重傷を負ってしまった者――それが本作の主人公・七瀬鶫である。ちなみに性別は男。魔法少女になる条件に性別は入っていなかったようだ。

……本当にそうか?

まぁ、そういった疑問はとりあえず置いておこう。七瀬鶫は間違いなく男でありながら、結界の中に入ることができたし、現に神と契約して魔法少女になることに成功してしまったのだから。

そんな風にして男を魔法少女にした神はベルと名乗った。彼の話している内容を聞くに、一人思い当たる神がいるが、外した時が恥ずかしいので黙っておく。とりあえず本作に出てくる神は、日本神話からギリシャ神話、北欧神話に至るまで多岐にわたるとだけ言っておこう。

そんな七瀬鶫の魔法少女としての名前が、葉隠桜なのである。

 

こうしてベルと七瀬鶫の二人三脚、魔法少女活動が始まった。

ちなみに魔法少女には戦闘などに役立つスキルが付与される。葉隠桜の場合、【転移】と【糸】と【暴食】の三つ。【転移】はその名の通り、狙った物体を瞬間移動させることができるスキルだ。自分も瞬間移動が可能になる超便利スキルだ。【糸】は、自分の身体から自在に糸を生成し、それを操ることができるというもの。他作品の名前を出すのは憚られるが、ONEPIECEのドフラミンゴが食ったイトイトの実を想像して欲しい。【暴食】は倒した魔獣を捕食し、自身の肉体を強化できるというもの。これが中々にグロい。

こうして列挙してみると汎用性のあるバランスの良いスキルと言えるのではないだろうか。彼とベルの二人三脚で、魔法少女としての活動が始まった。ただ魔獣討伐を繰り返しているだけ……しかし、不穏な影がちらつく裏では何かが始まろうとしていた。

プロローグ、世界観説明といった赴きが強い第一巻。次への期待が膨らむ物語であった。

【前:な し】【第一巻】【次:第二巻】

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件5 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】

※ネタバレをしないように書いています。

駄目人間ですが何か?

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作者:佐伯さん

イラスト:和武はざの

試し読み:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 5

ざっくりあらすじ

ついにお付き合いすることとなった二人は、そのことをクラスメイトや両親に公表した。周囲からの見る目が代わり、二人は堂々といちゃいちゃするようになって……。

感想などなど

お付き合いすることになった周と真昼。もう完結でいいじゃんと思った読者はブログ主だけだろうか。この第五巻からは、ゴールイン後のいちゃいちゃが延々と描かれていく。

読了しておいて何だが、内容は覚えていない。なにせこれまでも散々いちゃいちゃしていたのだから、二人がしていることはあまり変わっていない。変わったのは周囲の人達が二人を見る視線である。

はっきり言って、どうでも良い。

「天使様が取られた!」という男達の嘆き、「陰キャだと思ったらかっこ良くなってた!」という女達の悲鳴が聞こえる。クラスメイトに質問攻めされる真昼と、女性からの視線を感じる周の構図を、我々読者はどういった気持ちで見れば良いのだろうか。二人の成長(?)を喜ぶべきなのだろうか。

そういえば、周には悲しい過去のようなものがあった。

感想を読み返すと、ネタバレになると言って語っていなかったのでここで書かせていただこう。詳しくは第三巻を参照。

周の家庭はそこそこに裕福な家であった。そのためか、中学生で仲良くなって一方的に友達だと思っていた相手に金づるにされていたのだ。それでも周は仲良くしているつもりだったのだが、陰で容姿とか性格をボロクソに言われているところを聞いてしまった。それにショックを受けた周は、地元を離れて一人暮らしをしていたという流れだ。

マンションで一人暮らしさせることからも、彼の家の裕福さは良く分かるだろう。

この第五巻ではいちゃいちゃしているついでに、その過去との決別も計ることになる。

 

過去を忘れようとしてもそう簡単にできることではない。ましてやそれが悲しく辛い過去であれば尚更だ。周にとって友人が仮面を被って自分と接していたという事実は、そこから先、他人との関係を閉ざすに至るトラウマとなっていた。

だからこそ真昼に対してもどこか及び腰で、それでなくとも自信なさげな姿が、「陰キャ」といわれるゆえんだったのだろう。ただそんな彼も真昼に釣り合う男になりたいと奮闘し、勉強に運動を頑張ることで自信がついた。元々、顔は良かった。

努力すれば努力するほどに報われる環境は、自己肯定感が爆上がりする。周が変わることができたのは、間違いなく真昼のおかげだ。

そんな真昼の手を引いて、実家に帰ることにした周。先ほども書いたように、実家がある地元は彼にとってトラウマの地だ。楽しかったこともたくさんあるだろうに、悲しかったこと一つで全てが塗り替えられる。もういたくない場所になっていた……はずである。

しかし彼は真昼を案内すると言って、一緒にデートをする。ラストシーンはスカッとする方も多いのではないだろうか。

付き合った後の話には興味がないのだが、ただいちゃいちゃしているのを眺めるのも悪くないと思った。高スペックカップルは滋養に良いのかもしれない。

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻】

転生したら剣でした14 感想

【前:第十三巻】【第一巻】【次:第十五巻】
感想リスト

※ネタバレをしないように書いています。

剣として生きていく

情報

作者:棚架ユウ

イラスト:るろを

試し読み:転生したら剣でした 14

ざっくりあらすじ

アリステアに依頼されていた魔術学院での模擬戦講師をするため、学院があるベリオス王国に向かった師匠とフラン。同年代の仲間と切磋琢磨することを期待していた師匠だったが、学院には因縁の相手がいて……。

感想などなど

フェンリルの魂を浄化するために作られたインテリジェンスウェポン。この世界にいる存在――その全てを使役する能力を持つ邪神を浄化するためには、別の世界から連れてきた魂が必要だった。

その魂として選ばれたのが主人公の男のものだったという訳だ。

ちなみに魂の選別には色々と条件があったらしい。ある程度の俗人であるということや、宗教観は日本人的なものが丁度良いということ。レベルとかスキルといった概念になじめるだけの素質、つまりはオタクであれば良い。結論、ブログ主のような人間、QED。

異世界転生物の主人公にオタクが多いのは、作者にオタクが多いからではなかったんだな……という謎の納得をした第十三巻。そんな真実を知って、フェンリルが完全に浄化され、師匠もウルシも超強化された。そんな彼女達の次の戦いの舞台は、ベリオス王国にある魔術学校である。

この第十四巻は箸休めという印象が強い。フランにだる絡みしてくる輩も随分と少なくなったし、敵もフランより弱いものばかり。もっと強くなるためにどうすべきかを模索している巻、とも言えるかもしれない。

ただ見所がない訳ではない。さて、内容について語っていこう。

 

神級鍛冶師・アリステアからの依頼で、ベリオス王国にある魔術学校で指導教員として立つこととなったフラン一行。とはいえフランの戦闘能力、冒険者としての経験は申し分ないだろうが、何かを教えるとなると簡単ではないだろう。

ただ彼女曰く、指導教員といっても模擬戦の相手をするだけで良いらしく、生徒として授業に参加することも出来るのだという。フランに都合が良すぎる気もするが、フランの経験や戦闘能力は下手な授業で学ぶより、実際にボコボコにされた方が身につくというものだ。

第十四巻の前半は、彼女が教鞭を振るう(?)ことになる学園に向けての旅路が描かれていく。黒雷姫という二つ名が広がったおかげで、彼女を舐めてかかる者もいなくなった……と言いたいところだけれども、いるんだよなぁ。無知は罪、その罪はフランにボコボコにされることで浄化できる。

特に強烈だったのが、ディアーヌという冒険者嫌いの女騎士だ。「冒険者など、金に汚い野蛮人どもですぞ!」という台詞が、彼女の性格というものを物語っている。騎士としてのプライドの高さ、冒険者に対してはどんなに暴言を吐いたって良いという驕り。

彼女はカーナという良いところのご令嬢の護衛として、旅に同行しているらしかった。しかし道中の敵は雑魚ではないし、旅には不慣れであるらしかった。そんな状況を鑑みて、カーナはフランに同行を依頼した。そこでディアーヌの先ほどの台詞が飛び出す。

フランはBランク冒険者であり、彼女に同行を依頼するとなると相応の金がかかる。そういうところが金汚いのだ、と彼女は宣うが、自分を安売りするべきではない。能力に対してそれ相応の金額が支払われる。当たり前のことだ。

フランの機嫌が悪くなっていく様が想像できるのではないだろうか。生きた心地がしない旅の幕開けである。

 

後半は学園での生活が始まっていく。魔法とはまた違った才能が要求される精霊術に関して、フランには才能があるかもしれないと判明したり、学園長であるハイエルフがめっちゃ強くてかっこよかったりする。

ただ個人的に一番語りたいのは、フランの同年代が多いということ。

先ほど旅の道中で出会ったというカーナというご令嬢だが、実は学園の生徒であった。つまり学園で再び出会うことになる。また、冒険者ギルドでフランのことを心配してくれた上級生も――黒雷姫のことを知らないのは減点すべきかもしれないが――下級生だと思って優しく接してくれたのは良い先輩と評すべきなのだろう。

彼女の学園生活は幸先が良い……ということにしておこう。ハイエルフの学園長と戦うことになったりするが、まぁ、それも良い経験として糧になる。「今のフランとは初対面だ」という意味深な台詞を吐く輩も現れたりと、次の展開に繋がりそうな伏線はばっちり張り巡らされている。

これは楽しくなりそうで、期待が募る第十四巻であった。

【前:第十三巻】【第一巻】【次:第十五巻】
感想リスト

悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました7 感想

【前:第六巻】【第一巻】【次:第八巻

※ネタバレをしないように書いています。

ラスボス飼ってみた

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作者:永瀬さらさ

イラスト:紫真依

試し読み:悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました 7【電子特典付き】

ざっくりあらすじ

これまでのラスボスが全員集合し、それぞれの恋物語が暴走していく短編集。

感想などなど

第六巻でクロードと、魔王の過去から続いた因縁が幕を閉じた。こうしてやっと平穏無事な新婚生活を謳歌できるという訳だ。また、それぞれのナンバリングタイトルでのラスボス――聖王だったり、殺し屋だったり、復讐に燃えるアレコレだったりといった面々も、それぞれが思い思いの幸せを掴むこととなる。

この第七巻ではそれぞれの恋愛模様という名のいちゃいちゃを眺める巻となっている。これまでの先の読めないドキドキする展開とは違い、恋が成就してのハッピーな展開が続いていくので安心して読み進めることができる。

短編はかなり多岐にわたり、その全てを書き切るのは大変だ。なので記事に書くのは辞めようかと思ったくらいだが、第八巻、第九巻と続いていく本シリーズにおいて、続きの記事を書くためには七巻から逃げる訳にはいかない。

特に内容について語ることはない。ただいちゃいちゃしているだけなので。

 

第七巻の冒頭を飾るのは、アイリーンの相棒となる男・アイザックである。彼がアイリーンと出会い、アイリーンに惹かれていくところまでが描かれていく。当たり前ではあるが、出会っていきなり相棒ポジションに着いていた訳ではなかったということが分かる。

彼の視点から見ると、セドリック(元婚約者)とアイリーンの関係は実に歪だった。セドリックは優秀な男という評判であったが、その実態は、アイリーンのサポートがあったからこそだった……にも関わらず、アイリーンの評判は芳しくない。アイザックだけがアイリーンの能力を正当に評価し、そして彼女に惹かれていく。

そこからの婚約破棄の言い渡しである。これまでの物語で上がっていたセドリックの株が……ただそんな彼も反省して今のような男になったのかと考えると感慨深いものがある。

そこからアイリーンに助けられて、彼女に懐いているカラスの魔物・アーモンドの物語やら、クロードが友人を作りたいと笑顔で語り、その願いを叶えるべく顔を真っ青にしながら頑張る配下達などなど、慌ただしいながらも楽しい日常が綴られていく。

そんな中、魔王暗殺の命を受けて送り込まれたウォルトとカイルのコンビによる回想シーンを挟む。これが中々に暗い。そもそも魔王暗殺なんて出来る訳がない任務を言い渡されたウォルトとカイトの絶望感を想像して欲しい。

おそらく毒では死なない。真正面から挑んで勝てる存在ではない。なにせ魔王である。彼らに暗殺依頼を出したのは教会の人間であるが、魔王を舐めすぎているのではないだろうか。これまで一体どれほどの苦汁をなめさせられたのかを覚えていないのだろうか。

今回も例外なく、苦渋は舐めさせられる。

 

この世界にもバレンタインというものはあるらしい。日本の製菓業界がお菓子を売るために仕込んだ女性が男性にチョコを贈るというイベント通り、アイリーンは魔王様含め、全員の男性にチョコを贈った。

また、アイリーンだけではない。他の女性陣も密かにチョコを贈っているのだ。

これが幸せそうで良い! チョコは甘すぎるくらいが良いのかもしれない。

モテモテでチョコをたくさん貰っている魔王様に、嫉妬心を露わにするアイリーン様は今日も美しい。きっと明日も美しいだろう。それ以外にも不器用オーギュストと、彼からなんだかんだで目が離せないセレナの恋物語、アイザックとレイチェルの甘々な恋物語といった砂糖の多い短編が続いていく。

彼、彼女達が幸せそうで何よりと胸焼けする短編集であった。

【前:第六巻】【第一巻】【次:第八巻

岸辺露伴は叫ばない 感想

【前:な し】【第一巻】【次:な し】

※ネタバレをしないように書いています。

岸辺露伴はラノベでも動かない

情報

原作:荒木飛呂彦

作者:維羽祐介、北國バラッド、宮本深礼、吉上亮

試し読み:岸辺露伴は叫ばない 短編小説集

ざっくりあらすじ

『ジョジョの奇妙な冒険』第四部にて登場した天才漫画家・岸辺露伴の日常を描いた短編集。

感想などなど

『ジョジョの奇妙な冒険』を読んだことはあるだろうか。特に四部であれば話が早い。

『ジョジョの奇妙な冒険』、通称ジョジョについて簡単に説明すると、ジョースター家の一族が代々辿ることになる苛烈な戦いの人生を描いた人間賛歌の少年漫画である。一部と二部では波紋という呼吸法であったが、三部からはスタンドという精神エネルギーの具現化した超能力を駆使したバトルになっている。

その第四部『ダイヤモンドは砕けない』では、杜王町と呼ばれる町で起きる連続殺人事件を追うことになるのだが、その過程で出会った――連続殺人鬼との因縁もある漫画家・岸辺露伴のスピンオフ作品が本作である。

この岸辺露伴は本作以外にもスピンオフとして、漫画『岸辺露伴は動かない』やラノベ『岸辺露伴は戯れない』といったように多数出版されている。また、『岸辺露伴は動かない』は実写ドラマ化され好評を博している。

当然のようにブログ主も視聴している。本記事ではそちらの話には触れないが、見ていないという方は視聴をおすすめしたい。

 

『くしゃがら』

ネットに記事を公開している時点で、ある程度内容には気を遣っているつもりだ。ネタバレをしないというブログとしてのコンセプトは勿論だが、本業をうっかり漏らしてしまわないように、また特定に繋がるような個人情報は漏らさないようにしている。

それ以外注意していることといえば、禁止用語について、だろうか。

例えば分かりやすいところでいえば差別用語だろうか。他には災害を想起させるようなワードを多用するのも、人を不快にさせる可能性がある。禁止されるような用語ではないが、政治的な立場をはっきりさせるような言葉も避けた方が無難だ。

というようにほとんど無意識とはいえ、自然と避けている用語や内容というものがある。本ブログは誰に指示されるでもなく、個人で運用している媒体であり、ガイドラインを始めとする執筆のルールは存在しないが、会社運営していてライターを複数抱えている媒体だったりすると、そういったルールをまとめているものなのだろう。

漫画家も例外ではないらしい。岸辺露伴はまだ受け取っていないが、彼の同僚・志士十五の元には、漫画では使っていけない禁止用語をまとめたリストが展開されているらしかった。

そのリストには先ほども述べた通り差別用語といった出版物として避けるべき納得の用語や、〈感電死〉や〈高圧線〉といった最近起きた変死事件への配慮という意味不明な用語も記載されていた。そこまで気を遣いすぎるのも問題な気がするが……まぁ、良い。

問題は〈くしゃがら〉という禁止用語である。

〈くしゃがら〉という単語の意味をご存じという方は、是非ともネット上で大々的に公表して欲しい。きっと何人か救われる人間がでてくるはずだ。この〈くしゃがら〉という言葉……どんなに調べても意味が出てこないのである。

どうして禁止用語に含まれているのか。禁止されるには理由があるはずなのに、そもそも〈くしゃがら〉というワードに意味がないのであれば禁止される理由が存在しないということになる。それなのに禁止されているのはどうしてだ? 分からない。そこに理由を見いだそうとすればするほどに深みへと嵌まっていく。

〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉……くしゃみの言い換え表現だろうか。とある地方ではくしゃみを〈くしゃがら〉という風に記載するのかもしれない。もしくは何か妖怪の類いだろうか。巨大な骸骨である『がしゃどくろ』という妖怪の『がしゃ』という単語っぽい音。クシャというのは何かが潰れる音で、ガラというのは何かが崩れる音かもしれない。クシャ…ガラッ…

何かの熟語の音読みか訓読みを変えたら〈くしゃがら〉になるのかもしれない。夜露四苦をヨロシクと読むみたいに。差別用語を差別用語と悟られないために作られた隠語が、あまりに隠されすぎて意味が消失したのかもしれない。もしくは卑猥な単語か。〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉〈くしゃがら〉って何度も繰り返し言ってたら、変な言葉になったりするのかもしれない。

趣味でブログを書いているに過ぎない人間の推測程度、言葉を生業にしている漫画家二人は調査してしまうのだろう。岸辺露伴と志士十五は、この〈くしゃがら〉の正体を探るべく調査し、予想外の正体に辿り着く。

〈くしゃがら〉について知るのは自己責任ということで。覚悟が出来た方は、本作を読み進めるようにして欲しい。

 

『Blackstar.』

〈スパゲッティ・マン〉という都市伝説をご存じだろうか。

都市伝説というのはネット上で語られて発展を遂げた怪談のようなもので、大抵のものが創作である。ただネット上であるというのがポイントで、真実かどうかを確かめる術がない。もしかしたら本当かもしれないという可能性だけが一人歩きして、設定が盛られて大きくなっていく。

〈スパゲッティ・マン〉もその一種であり創作……かと思われた。しかし岸辺露伴は知っている。こいつは本当に存在するものだ、と。

この短編はホラーというよりはSFという方が近いかもしれない。最初は怖いかもしれないが、岸辺露伴というフィルターを通して怪異を追っていくと、〈スパゲッティ・マン〉という存在のルールや目的というものが気になっていく。

〈スパゲッティ・マン〉について簡単に説明しよう。

写真を撮っていると必ず映り込んでくる身に覚えのない男が現れるのだという。そいつは必ずカメラ目線で、記憶をたぐり寄せても、写真に写っているその場所に男がいた覚えはない。ただそれだけの男なのだが、その写真を撮ってしまった者は数日中に失踪するのだという。

その男の正体を追っている者の痕跡がネットには転がっており、その全員が失踪しているというのだから、ネット上では怪異として話が広がっていった。その男に付いた名前が〈スパゲッティ・マン〉という訳だ。

岸辺露伴もまた、身に覚えのないカメラ目線の男の写真を撮ってしまった。真相に近づくにつれ、はっきりとしていく〈スパゲッティ・マン〉の全体像は、得体の知れない不気味さに包まれている。

正体見たり枯れ尾花……怪異とは正体が分かってしまえば怖くないものだが、正体が分かってしまっても尚、どうしようもない存在に対する畏怖は消えない。そういう物語であった。

 

『血栞塗』

人から好奇心を消そうと思っても消せないもので、特に岸辺露伴はその傾向が強い。〈スパゲッティ・マン〉を追う姿勢はある意味で狂気じみているとも言える。ただその一件は、解決できなければ死ぬという状況だった。

ただ今回は違う。何か最悪なことが起こると分かっていて、その上で彼は好奇心のために事件に巻き込まれたのだ。

そもそも事件に巻き込まれることになったきっかけは、フグを食べて苦しんでいる人を見たいという好奇心であった。……とはいえ人を捕まえてフグを食わせるとか、そんなことはできないため、関連の書籍を集めるために足を運んだ図書館にて、開いてはいけないとされている本――正確にはその本に挟まっている真っ赤な栞を見つけてしまう。

さて、この真っ赤な栞とは何なのか。

この図書館では、この赤い栞を見つけてしまうと不幸になるのだという……ただそれだけの噂が流れていた。岸辺露伴としてはこんな面白そうな話を放っておく訳がない。当初の目的としては、フグ毒に関する書籍を探しているに過ぎなかったが、赤い栞の捜索も行動に組み込まれることとなる。

その好奇心が岸辺露伴を追い込んでいく。赤い栞を ”偶然” にも見つけてしまったとしても、その正体を探ろうとしてはいけない。好奇心は猫をも殺すのだ。

 

『検閲方程式』

今回もまた、岸辺露伴が好奇心に則って行動し死にかける話である。他のスピンオフ作品も似たような感じなので覚えておこう。

ただし、今回岸辺露伴が追っかけることになるものはとある数式の解である。世界には数学者が一生をかけて解き明かせないような問題が転がっており、岸辺露伴にはそのような数学者と肩を並べるような能力は持ち合わせていない。

ちなみにその数式というのは、解き明かすことができれば別次元に移動ができるようになるのだという。我々がいる三次元空間を超越し、もしも四次元空間に行くことができたとすれば、もしかすると時間移動が可能になるかもしれない――そんな、社会構造すら変えかねない命題の解法は分かっている。

『一日八時間作業を行い、三百六十年ほどかければ解ける』らしい。要は時間をかければ誰でも解こうと思えば解けるという訳だ。

岸辺露伴はそんなことしようとは思わない。彼にとっての興味は、その問題を解いてしまった人物がいて(ちなみに解は37である)、その人物が病院のベットで眠っているということの方であった。

世界を変えてしまうようなその命題の解を導いた人間に、この世界はどう見えるのか。岸辺露伴の興味と、読者の興味がシンクロして迎える結末。数学を愛する者であれば、一度は見てみたい世界なのではないだろうか。

 

『オカミサマ』

時は金なりという言葉がある。

時間は金で買えるという訳だが、金を消費したところで過去を変えることはできない。歳を重ねることで皺が深くなった肌を、大金を費やして若々しく保たせることは可能かもしれないが、実際に費やした歳月は戻ってこない。時と時間は等価交換できるという数式は、必ずしも成立しない。

しかし、岸辺露伴が遭遇したオオカミサマはその等価交換を成立させる神のような存在である。そいつに抗った岸辺露伴という男は、実に罪深い。

岸辺露伴は自営業だ。漫画家というのはそういうもので、確定申告や税金のアレコレは自分で整理しているらしい。そこでお世話になっている顧問税理士・坂ノ上誠子に、オオカミサマという存在を聞いた。

彼女曰く、オオカミサマというのを領収書の相手先に記載することで、「お金を払わなくてはならない」という事実を消してくれるらしい。これにより合法的(?)に支払いを消していくことができる。

岸辺露伴は取材という名目で、そのオオカミサマを試しに使ってみた。するとどうだろう、支払いしなくても良いではないか!

ただそんな美味い話には裏があるのだ。みなさんも金については気をつけよう、ただの紙切れと侮って痛い目を見るのは自分なのである。良い教訓を得られる話であった。

【前:な し】【第一巻】【次:な し】

ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する2 感想

【前:第一巻】【第一巻】【次:第三巻】

※ネタバレをしないように書いています。

これまでのループを無駄にはしない

情報

作者:雨川透子

イラスト:八美☆わん

試し読み:ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する 2

ざっくりあらすじ

別のループで自分を殺した皇太子アルノルトの元に嫁ぎ、その弟テオドールとの確執も解消し、自由気ままな花嫁生活が順調(?)に進んでいた。そんな中、強くなるために男として騎士団の訓練に紛れ込もうとするリーシェであったが――。

感想などなど

なんやかんやあって、皇太子アルノルトの嫁となったリーシェ。あっさりと書いているが皇太子の妻、つまりは皇太子妃となった訳であって、もう目標である自由気ままな花嫁生活は確約されたも同然……と言いたい人生だった。

婚約相手の弟に拉致監禁されるという人生を、自由気ままな花嫁生活と呼べる人がいるならば、是非ともお会いしたい。その包囲網を単身でくぐり抜け、何事もなかったかのようにする強者は、花嫁という役柄に押しとどめておくのはあまりに損失が大きい。

とはいえ彼女は勝手に国をよりよくするために行動し、勝手に強くなるための特訓を積んでいくのだから恐ろしい。第一巻での騒動の反省を生かし、ひとまず強くなるための特訓を開始したリーシェが、その特訓方法に選んだのは、別ループでは敵国だった騎士団に男として潜り込んで扱かれるというものだった。

その協力をお願いされたテオドールはドン引きである。とはいえ兄の驚いた表情を見たい彼は、なんやかんやで快諾し、騎士団としての特訓が受けられるように地位などを準備。兄(とリーシェ)に負けたが、こいつはこいつで有能である。

そうしてフリッツという名前で特訓を開始したリーシェ。テオドールではないが、この事実がアルノルトにバレてどんな表情をするのか、楽しみにしている読者はブログ主だけではないだろう。

この第二巻ではそんな特訓を本筋にして展開する……といいたいところだが、実際の物語はかなり複雑に展開していく。別のループで薬師である時に救った雪国コヨルの第一王子カイルや、同じループで薬師としての先生であったミシェルといった面々との再会により、物語は混沌へと向かっていく。

 

雪国コヨル。

宝石が産出され、金鉱も有しており、そこそこの国力があるように一見すると思う。しかしながら冬は雪により閉ざされ食料の確保や流通に難航し、薪の消費も著しい。もしもアルノルトが治める(ことになる)ガルクハイン国との戦争になれば大敗することだろう。

つまりは二国間の立場は対等に見せかけているがその実際は違うということ。

今回、第一王子コヨルがガルクハイン国を訪れたのは、友好を示すということもあるが、それ以上に戦争をしないための根回しという側面が強いように思える。ただ先ほども書いたように対等な関係を築くにしても、国力差があり過ぎるというのは考えものだ。

良く考えて欲しい。ガルクハイン国からコヨル国に色々と支援したり友好的にしたとしても、コヨル国からの見返りを求めようにもそんなものはない。このままでは国力差ばかりが広がっていくこととなる。

これを打開できるカードがコヨルにあるのか。戦争になることは是が非でも回避したいリーシェの奮闘が始まる。

 

この第二巻は色々とリーシェのしたいことたくさん描かれ、自由気ままに好き勝手に行動し、場所や状況や目的というものが激しく入れ替わっていく。そのため時間を空けて読むと「あれ、ここにいるのは何でだっけ?」と記憶障害になった気分が味わえる。最終的にはコヨル国とガルクハイン国との戦争を回避するという大きな柱が立ち上がってくるので、ひとまずそこまで一気読みすることをおすすめしたい。

色々といったが最後には綺麗なシーンで幕引きとなる。読み応えのある第二巻であった。

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お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件4 感想

【前:第三巻】【第一巻】【次:第五巻

※ネタバレをしないように書いています。

駄目人間ですが何か?

情報

作者:佐伯さん

イラスト:和武はざの

試し読み:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 4

ざっくりあらすじ

真昼の爆弾発言により騒然とする中、彼女への想いを募らせる周は、彼女に釣り合う男になろうとするが……。

感想などなど

「好きです」という言葉以外が告白にならないとお思いか?

『私にとって……彼は一番大切な人ですよ』というように、休日に一緒に出歩いていたイケメン(=周)のことを説明した真昼。これはもはや、一種の公開告白ではないかと思ったのはブログ主だけだろうか。

大切な人というワードのインパクトは相当なものだ。ここまで言われて黙って引き下がる男、そんなことを言って周囲から追求される真昼を心配する男、草食を極めた男、だからこそ真昼に大切な人と言われた男……それが本作の主人公・周である。

ただ彼の気持ちを理解できないとは言わない。眉目秀麗、容姿端麗、成績優秀……といったようにとりあえず凄い人を褒め称える言葉を並べておけば成立する美少女・真昼の隣に立つとなった時、気後れしてしまうような状態ではいずれ心が破綻する。

彼女の隣に立っても恥ずかしくない男になるため、奮闘を開始し早々に成果を出す回……この第四巻を要約するとそんな感じだ。

 

何事においても成果を出すとなると簡単ではない。努力してきた人間と、してこなかった人間の間にある差というものは大きい。努力してきた人間は、これからも努力し続けるだろうし、その方法だって理解している。努力してこなかった者が、その人物に追いつこうとした時、それは何か特別なイレギュラーがないと成立しない。

とりあえず周がしようとしたことは、身体を鍛えること。

周はこれまでまともな食事をしてこなかった。運動は嗜む程度、部活に所属している訳ではない。太ってはないが筋肉は細い。ただ彼女に似合う男になるには、それなりの筋肉が欲しい。

筋肉は全てを解決するんだなぁ……と適当な感想を抱きつつ、徐々に健康体になりつつある男・周。筋肉を付ける上で一番大切とされる食事管理を担ってくれる美少女がいる周にとって、それほど苦労はしないかもしれない。羨ましい。

そして次は勉学。テストで毎回のように学年一位をとる彼女に追いつくため、ひとまず学年一桁を目指して勉強を開始した。

勉強ノートを貸してくれたり、下手な家庭教師よりも上手に勉強を教えてくれたりと、勉強の世話までしてくれる乙女がお隣さんの周にとって、これをこなすのもそれほど難しいことではなかった。羨ましい奴め!

というように彼女の隣に立つための鍛錬で、彼女との距離を詰めていく策士・周の努力は第四巻で花を咲かせ、「もう完結で良いんじゃね?」という結末を迎えることとなる。

もう第三巻の時点でゴールインしたとカウントして良い派閥のブログ主からしてみれば、この第四巻はゴールテープを切った後のウィニングランであった。

 

努力したら努力した分だけ愛情で返して甘えさせてくれる女性を、天使と呼称しよう。

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