工大生のメモ帳

読書感想その他もろもろ

転生したら剣でした13 感想

【前:第十二巻】【第一巻】【次:第十四巻】
感想リスト

※ネタバレをしないように書いています。

剣として生きていく

情報

作者:棚架ユウ

イラスト:るろを

試し読み:転生したら剣でした 13

ざっくりあらすじ

師匠が始めて目覚めた魔狼の平原に戻ってきて修行することにした師匠とフラン。久しぶりのアレッサの街を懐かしむのも束の間、平原での修行が始まる。

感想などなど

アレッサ……フランと師匠が出会ってから初めて足を踏み入れた街であり、冒険者としての華々しい活躍が始まった街でもある。そこに戻ってきたのは、そこの近くにある魔狼の平原に用があるためだ。

魔狼の平原……これもまた懐かしい。『転生したら剣でした』シリーズが幕を開けた始まりの地であり、師匠が突き刺さっていた場所でもある。当時は知らなかったが、そこは冒険者ランクB以上でなければ立ち入ることが許されない危険地帯だった。

第十二巻では狂信剣が大暴れして王都が崩壊するという大事件を経験し、自分たちの無力さを思い知った二人。魔狼の平原では魔力を吸われるため、魔法に頼ることができない上、そこに生息する魔物も強いということもあり、二人が強くなるための修行場として白羽の矢が立った。

また、師匠が目覚めた場所を調査することで、謎に包まれた師匠のルーツを知ることができるのではという期待もあった。二兎を追う者は一兎も得ずというが、この第十三巻では修行も大成功、師匠のルーツもしっかり知ることができたという一石二鳥回である。

師匠のルーツについて気になっている方も多いことだろう。一応、本ブログはネタバレをしないという絶対のルールを掲げている。第十三巻において、師匠のルーツについては前半部で描かれており、どこからどこまでがネタバレなのか判断が付きにくい部分である。

ただ第十三巻を読んでも先が気になるドキドキ感は味わえるように最善を尽くすつもりである。

 

『俺の名はフェンリル。元神獣にして、邪神を喰らって狂いし邪獣。そして、師匠の中に魂を封じられている間借り人だ』

師匠の中にいてこれまで何度か声だけの登場だった男の正体が明かされた。まぁ、おおよその読者が「もしや?」と思っていたのではないだろうか。とはいえ本人の口から語られると、やはり驚いてしまうものだ。

彼が語る物語は、この世界の神話の片隅で忘れられてしまうようなエピローグのようなものであった。邪神が現れ、神がそいつを封印した。邪神を喰らって狂った邪獣も一緒に封印する必要があり、その封印の場として使われていたのが、かつて師匠が刺さっていた台座だった。

魔力を吸ってしまう特殊な大地や空間は、全て邪神を封印するというためのギミックであったということらしい。道理で生息する魔物がみんな強い訳である。そうして長い年月が経ち、邪神は浄化されつつあるというのだから、この話はめでたし、めでたし……という風に終わってくれれば話は早かった。

問題はフェンリルである。浄化したい邪神の汚れた魂は、フェンリルを少しずつ侵食しており、このままでは駄目だということで、『フェンリルを冒している邪神の魂を浄化するシステム』を作り出した。

そのシステムが師匠なのだ。

……いや、待て。だとすれば師匠の中に別世界の人間の魂が入っていることの説明がつかないではないか! と憤慨される方もいるかもしれない。そこにも説明が行われていくのだから安心して欲しい。

そこから先は読んで確認して貰おう。

 

師匠のルーツが分かったというのは大きな進歩だが、この第十三巻ではフランやウルシも爆発的に強くなる。第十二巻において自身の無力さを思い知った二人の「強くなりたい」という意思の強さが垣間見える第十三巻。

修行回というのは、物語としての進展もなく退屈なものだが、本シリーズでは強くなることが物語としての展開と直接的に繋がっていく。なにせ師匠がより高みに至るためには、自身のルーツを知ることが必要不可欠であったり、フランはフランで成長を遂げるためには一時的に師匠と離れる必要があった。ウルシもまた、フェンリルの聖地(?)とも呼べる魔狼の平原に来る必要があったと分かる。

全てが繋がって、全員の成長に繋がっていく。心身ともにたくましくなる第十三巻であった。

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ゼロから始める魔法の書Ⅳ 黒竜島の魔姫 感想

【前:第三巻】【第一巻】【次:第五巻
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

『魔法』はまだない

情報

作者:虎走かける

イラスト:しずまよしのり

試し読み:ゼロから始める魔法の書 IV ―黒竜島の魔姫―

ざっくりあらすじ

ゼロの書の写本を世界にばらまいて魔法を広めている謎の組織〈不完全なる数字(セストゥム)〉を追っかけて、ゼロの故郷へと向かうゼロと傭兵。しかしその道中、船が嵐にあい、命からがら辿り着いたのは竜の住まう黒竜島であった。

感想などなど

黒幕は自身が開発した魔法での自殺した。そこまで追い込んだのはゼロ達ではあるのだが、どうにも勝った感じは薄い。最後の最後まで黒幕の思い通りに事は進んだようなものである。

黒幕に利用された聖女リア。彼女が使っていた魔法は奇蹟ではなく、街の人に病気や怪我を移すことで治したようにみせかけているだけに過ぎなかった。本人は自分が起こしているのは奇蹟だと疑っていなかったのが、なんとも言い難い。

そんな彼女に『魔法の書』の一部を託し、罪を背負って生きていくことを誓わせたゼロ。魔法のせいではなく魔法は使うもの次第という考え方のゼロと傭兵らしい、落とし所ではなかろうか。

そんな二人が次に向かった場所はゼロの故郷――のはずだった。

移動手段は船、船の前に現れたのは目的地ではなく竜であった。いずれの物語においても竜というのは最強の力を持っているが、本作における竜も、人々からすれば畏怖の対象である。

そんな竜が住んでいるのがタイトルにも出てきている黒竜島。船が流されてこの島に行き着いてしまったことで、厄介な島の運命に巻き込まれていくことになる。

 

竜の襲撃により船は壊れ、近くにあった島まで泳いでいくことを余儀なくされたゼロと傭兵。しかしゼロを抱きかかえて泳いだ後、意識を失った傭兵の前に現れたのは、銀髪美少女・ゼロではなく、黒髪美少女の姫であった。

姫曰く、「ゼロは死んだ」。

……まぁ、抜けたところのある希代の天才であるが、そう簡単に死ぬような輩ではない。それを証明するかのように、傭兵に首輪を嵌めて連行する姫の前には、ゼロが現れた。

傭兵を好き勝手されたゼロが怒り狂う様が、読者の皆様方は容易に想像できるのではないだろうか。彼女は魔法を使い、姫に攻撃を仕掛ける。しかし意外にも、姫もまたそれに魔法で応戦しようとした。

だが無意味。その魔法をゼロは却下……却下できるということはゼロが作った魔法を、彼女は使ったということ。即ち、『ゼロの書』がこの島に持ち込まれたということ。

この島には収穫の章が持ち込まれていて、その名が示す通り、畑仕事を楽にするために作られた魔法は、戦争に使われているのだった。

 

この島に魔法が持ち込まれてからというもの、それはそれは酷い歴史を辿ったようだ。竜がいることで周囲との関係は途絶し、島の中だけで構築されたコミュニティの辿る末路はまるで世界の結末を見ているような気持ちになった。

それにしても。この島に魔法を持ち込んだのは一体どこの誰なのか。

島内で争い、殺し合いを行ってきた彼らが、本当に戦うべきは誰なのか。ゼロ達もまた、その答えを模索し、島の人々と行動を共にしていく。そういう考えさせられる巻であった。

【前:第三巻】【第一巻】【次:第五巻
作品リスト

悪役令嬢の役割は終えました2 感想

【前:第一巻】【第一巻】【次:な し】

※ネタバレをしないように書いています。

悪役令嬢のその後……

情報

作者:月椿

イラスト:煮たか

試し読み:悪役令嬢の役割は終えました 2

ざっくりあらすじ

副騎士団長ヴォルフと結ばれることとなったレフィーナであったが、ヴォルフの父は庶民の娘であるレフィーナのことを認めようとはせず、色々と嫌がらせを仕掛けてきて――。

感想などなど

前世での妹・ソラを助けるため自身の寿命を引き渡し、転生した先では悪役令嬢としての役割を全うすることを神に命じられ、その役を果たしたレフィーナ。彼女の苦労の全ては報われ、幸せな生活を掴んだ……かに見えた第一巻。

第二巻ではヴォルフの人間関係の清算と、レフィーナを含めた登場人物達のその後が描かれていく。第一巻を読んで、幸せを掴んだとはいえどこかモヤモヤを抱えたという人は、第二巻を読むことをオススメしたい。

ご都合主義と言われるかもしれない。神といえばどんな無茶でも許されるのかと突っ込みたくなるかもしれない。それでも、顕在していたあらゆる問題が解決して迎えるハッピーエンドは読んでいて清々しいものである。

そんなレフィーナの幸せのため、第一巻で奮闘してくれたヒーローの一人・ヴォルフについて見ていこう。

 

ヴォルフは副騎士団長という華々しい男の中の男である。第一巻において、レフィーナのために戦った勇姿はご覧いただいただろう。レフィーナに前世があるといった話を聞いても受け入れたというのもポイントが高い。

そんな彼の父を名乗る貴族の男が現れた。その名をアングレス・ボースハイトという地位は伯爵である。レフィーナと彼とのファーストコンタクトは最悪と言わざるを得ない。

値踏みするような視線、「……やはり相応しくないな……」という台詞。高圧的な態度。そのどれをとっても、男らしく、(レフィーナに対して)とことん甘く、不器用なヴォルフの姿とは重ならない。

ただヴォルフと同じ焦げ茶色の髪に、金色の瞳をしている。信じたくないがヴォルフは彼の息子なのだろう。そんな父がレフィーナに向ける視線は嫌悪感、そして副騎士団長となった息子を連れ戻すという野心であった。

連れ戻すという言葉は不正確だ。彼は「程度の低い庶民と結ばれることより、貴族になる道を選ぶ」と信じているのだ。

……そもそもヴォルフは貴族の生まれでありながら、どうしてこのような立場になっているのだろうか。それには壮絶な過去があった。

そもそもヴォルフの母親・スフィアは、妻がいる男にも手を出すような女であった。ボースハイトからしてみれば、適当に抱ける都合のいい女だったのかもしれない。そして妊娠、ヴォルフが生まれた。血統を何より大事にしているボースハイトにとって、庶民の女との間に出来た子供には興味なんてなかったのだろう。認知はされず、母親一人でヴォルフを育て上げた。

ただこの母親もまた屑であった。なんと男と上手くいかないことがあれば、ヴォルフに手を上げたのだ。また、ヴォルフが成長するにつれて彼を男として見るようになるというオマケ付きである。

そんな母親の最期は、手を出した男の妻に刺されるという自業自得の結末だが、息子としては受け入れがたい死であった。

そんな両親には恵まれなかった彼だが、環境には恵まれたということなのだろう。よくもまぁ、こんなにまっすぐな男に育ったものである。そんな彼を貴族に迎え入れるために行ったボースハイトの気色悪さを是非とも見てあげて欲しい。

彼の没落は一瞬である。ここでもまた、レフィーナの優しさを知っている者達の覚悟と行動があった。先ほどご都合主義という風に書いたが撤回しよう。全てはレフィーナの人格が招いたハッピーエンドである。

 

後半はレフィーナとヴォルフの新婚生活を描いた短編や、雪乃と契約を結んだ神の科小話を描いた短編、前世で生き残ることができたソラの生活風景など、それぞれの幸せな物語が描かれていく。

個人的には完結した物語のその後には興味はないし、読みたくない派閥の人間なのだが、ここまでが『悪役令嬢の役割は終えました』としての結末だと思うと満足度が高い。

幸せな物語であった。

【前:第一巻】【第一巻】【次:な し】

異世界薬局7 感想

【前:第六巻】【第一巻】【次:第八巻】
作品リスト

※ネタバレをしないように書いています。

平均寿命を10年上げたい

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作者:高山理図

イラスト:keepout

試し読み:異世界薬局 7

ざっくりあらすじ

悪霊からの襲撃を受けた帝国は防戦一方であったが、ファルマの登場で微かに希望が見いだせた。しかし、ファルマの作った異世界薬局を守るために戦ったエレンが犠牲になってしまい……。

感想などなど

薬神であるファルマは神聖国にて、鎹によってすり潰されかけたところを救われた。この世界を存続させるためには、ファルマの犠牲が必要という主張は強ち間違いではないということが分かっただけでも大きな収穫であろう。

そんな中、帝国では厄介な事件が起きていた。

……いや、事件というよりは災害とでも呼称すべきだろうか。現代日本の科学では説明できない災害・悪霊の大量発生である。これまでの病気を初めとした事象は、現代科学でもある程度説明ができ、また対処もできるものが多かった。

しかし、神力という特殊な概念があるからこそ成立する事象に関して、ファルマは知識が乏しかった。膨大な神力量や、あらゆる元素を構築・消去できるチート神術を使えるが、実際に悪霊と戦って民衆を守るということに関して、ファルマはバックアップに努めることとなる。

例えば。

この世界では神力を使って動く機器の導力には、神力を蓄えておいた晶石を利用する。電気であれば発電機を作ってアレコレするが、この世界では人が神力を注ぐことで充電(充神?)することができる。ここでファルマの無尽蔵な神力がとても役に立つ。

当たり前のように空を滑空しているが、この神術もチートと言って良い。そんなファルマが帝国に戻ってきたことは、生き残り達にとっては暁光だった。ファルマもその期待に応える。

そんな中、ファルマは異世界薬局に倒れているエレンを発見する。

 

帝国の人達はファルマも教鞭を握っている大学に避難した。設備的な問題もあるし、大学には優秀な人達が多い。数少ない資源を駆使して、悪霊達の侵攻を食い止めていた様は第六巻でもしっかりと描かれている。

その大学にエレンはいなかった。ではどこにいたのかといえば、ファルマが街の人々のためを思って建てた異世界薬局である。彼女は身を挺して、調剤室や薬歴、カルテ、貴重な試薬を守っていたのだ。

エレンは「ここには、失うと代わりの利かないものがあるもの……」と命を賭して守ることを誓い、その役目を果たした。彼女の言うとおり、ここにあるものは聖泉から命がけで持ち帰った造れない薬だって確かにある。彼女の行動は、世界を救ったと胃って良いかもしれない。

床に広がった血溜まりが、エレンの傷の深さを物語っている。エレンはとっさに輸血を試みるが、血を保管していた保冷庫、冷凍庫の設備が壊れていたのだ。すっかり常温になって使い物にならなくなった血液を前にしたファルマの絶望感は、読者にも伝わってくる。

これまで幾度となく奇蹟を起こしてきたファルマは、また奇蹟を起こすことができるのだろうか。この第七巻は全体を通して山場が多いが、一番印象に残る山場はここであろう。

そんな感じで、第六巻から悪霊との死闘が描かれていくが、基本的にファルマ以外の面々の視点になることが多い。これまでファルマに救われてきた人達が活躍する様を見るのは、とても楽しい。

例えば。

白血病で苦しんだパッレは、その神術の才能を遺憾なく発揮している。ル・ルーはその尊爵の位に恥じぬ強さで民衆を守った。それぞれが自分のできる立場と役割で戦っている。

 

後半は比較的平和な日常が戻り、定期考査に苦しんだりといった話が描かれていく。そんな中でファルマは、前世で妹の命を奪った病気と遭遇する。その病気の名は膠芽腫、脳腫瘍の中で最も悪性度の高い腫瘍で、手術による全摘出は困難。平均寿命は十四ヶ月、五年生存率はわずかの八パーセント。

医療が発達した現代でも、この数字なのだから恐ろしい。ましてこの世界ではどのようにして治療することができるのか。苛烈な戦いが終わった後も、ファルマの戦いは終わらない。

山場の多い第七巻であった。

【前:第六巻】【第一巻】【次:第八巻】
作品リスト

悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました6 感想

【前:第五巻】【第一巻】【次:第七巻

※ネタバレをしないように書いています。

ラスボス飼ってみた

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作者:永瀬さらさ

イラスト:紫真依

試し読み:悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました 6

ざっくりあらすじ

『聖と魔と乙女のレガリア4』でルシェルと結ばれるはずだったという運命に則って、ヒロイン・アメリアの語る正ルート通りに進んでいく。そして、クロードの人格が魔王ルシェルに乗っ取られてしまう。

感想などなど

永世中立国・ハウゼル女王国の女王選抜試験ということで、クロードとの愛を育むために魔王城に押し寄せてきた女王候補達。アイリーンやクロード達の苦心により、次々と候補達を失格させたりしてきたのだが、アメリアという女だけは運命の力で守られているかの如くクロードとの繋がりを強めていく。

乙女ゲーム世界に転生する系の作品ではありがちな、ゲームのルートに戻そうとする強制力=運命の力という等式が、ここに来て猛威を振るっているのだろうか。いや、それにしたってこの強制力はおかしくないだろうか。

そもそも第一巻からして、ゲームのストーリー通りに進むのであればリリアとクロードが結ばれるはずであった。アイリーンが無理やりクロードと婚約すると言い出さなければ、これまでの物語が成立しない。

ここで何かゲームによる強制力が働いただろうか……まぁ、リリアの妨害はあったにせよ、クロードの感情が無理やり捻じ曲がるというようなことはなかったはずである。二作目における悪役令嬢・レイチェルが、アイリーンのお付きになる未来など来るはずがなかったである。

それがここに来て、心を歪めるような強制力の発動……これはあまりに違和感がある。ただクロードは男が惚れる最強の漢、アイリーン以外の女性と婚約してしまうくらいならば、心がルシェルに支配されるくらいならば、覚悟を決めた彼の自爆行為は、読者のみならず部下達も驚かせた。

これが愛のなせる技か……まぁ、彼の自爆もむなしくクロードは魔王ルシェルに支配され、アメリアとの愛を育むべく行動を開始することになってしまうのだが、それをどうするかの戦争が第六巻から始まっていく。

 

この第六巻では『クロード様を取り返す』ための戦争と、『ルシェルとアメリアの真実』を突き止めるための調査の二本が同時並行で進んでいく。クロード様強すぎ問題に改めて頭を悩ませつつ、ルシェルの妻――つまりはクロードの母であるグレイスについての真実が語られていく。

戦争についてはとりあえず置いておくとして。

真実については、聖王の妻である水竜が運んできたアメリアの日記を読み進めていくことで、『聖と魔と乙女のレガリア4』のストーリーを追体験していくような形で真実を理解することとなる。

その内容はゲームをやり込んだリリアにとっては予想外のものとなっていた。正ヒロインであるはずのアメリアが、どうしてルシェルと結ばれなかったのか? クロードはどうしてアメリアの姉であるクロードに惹かれたのか?

乙女ゲームでは描かれなかった、ヒロインの抱えた感情が日記には吐き出されていた。愛の力は一つの国を救うこともあるが、愛の狂気は自分の姉ですら殺してしまうという悲劇が、そこには描かれていたのだ。

その狂気は、まさか運命すらも支配してしまうのだから恐ろしい話である。

 

先ほども述べた真実を知ったことで、クロードを取り返す世界を巻き込んだ戦いでどうすれば良いかの指針を決めるために必要であった。そこでも最後の決め手になるのは、結局のところ愛である。

ラストの夫婦喧嘩は見物である(些か一方的な気もするが)。熱くもあり、微笑ましくもある最終決戦であった。

【前:第五巻】【第一巻】【次:第七巻

僕が七不思議になったわけ 感想

【前:な し】【第一巻】【次:な し】

※ネタバレをしないように書いています。

七不思議はありますか?

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作者:小川晴央

試し読み:僕が七不思議になったわけ

ざっくりあらすじ

影の薄い中崎夕也は、学校の七不思議を司っているのだというテンコにお願いされ、顎関節症になって引退を余儀なくされた理科室の骸骨の代わりに七不思議として名を連ねることとなってしまう。そんな彼はストーカー被害に遭う朝倉さんのことを知り……。

感想などなど

皆さんの学校には七不思議というものがあっただろうか。

大人になって必死に学生時代を思い返して見るも、学校に七不思議はなかったように思う。ただトイレの花子さんがいるかもしれないという噂を聞いた記憶や、階段の段数を意識して数えて、上りと下りで変動していないことに安堵したりといった記憶や、二宮金次郎の像がそもそも学校にないということに首をかしげたりした記憶はある。

ブログ主にとって七不思議という存在はその程度の認識であるが、本作の舞台である清城高校には、きっちりとした七不思議があった。

  1. テンコさん
  2. トイレの花子さん
  3. 霊界の吐息
  4. 十三階段
  5. 赤目の鳥
  6. 呪いのメール
  7. 理科室の骸骨

ただ最近になって、七番目の理科室の骸骨さんが顎関節症にかかり、七不思議を引退してしまったらしい。七不思議に引退という制度があるということが初耳であるが、科学技術が進歩し、学校の環境も様変わりしていく。それに対応したアップデートというものが必要なのかもしれない。

さて、七不思議が六不思議になって困るのが七不思議の総括を担っているテンコさんである。この人……もとい霊はひょうきんな性格で、ノリと勢いで七不思議を取り仕切っている節がある。そのノリによって七不思議の七番目、骸骨の席に座ることになったのが、本作の主人公・中崎夕也である。

そうして新しくできあがった七不思議は下記である。

  1. テンコさん
  2. トイレの花子さん
  3. 霊界の吐息
  4. 十三階段
  5. 赤目の鳥
  6. 呪いのメール
  7. 三年B組 中崎くん(仮)

七不思議の引き継ぎというのは、どうやら卒業式の時にしか行えないらしい。物語が始まるのは入学式を終えた春真っ盛り。残り一年間は不在の席を埋める仮の不思議として名を連ねることとなる。

そんな七不思議・中崎くんは他の七不思議の力を借りつつ、学園生活で起こる厄介事を解決していくこととなる。

 

物語は春・夏・秋・冬……というように季節を巡る形で進む。ミステリチックな展開もありつつ、助けたヒロインとのラブロマンス的な展開も交えながら、七不思議としての生涯が描かれていく。

例えば。

春、七不思議として名を連ねて早々の話である。三年B組の出席番号一番。保健委員を担っている女子高生・朝倉さんは、謎の怪メールに悩まされていた。

内容は屈折した愛情が書き連ねられていたり、誹謗中傷であったり、「綺麗な顔に傷をつけたい」といった犯罪予告めいたものであったり。それはそれは酷い内容であり、彼女はそれを誰にも相談できずにいるようだった。

そんな彼女の苦悩を、『呪いのメール』という七不思議の力を通して知ってしまった中崎くん。

この『呪いのメール』というのは学校の生徒のメールアドレスをハックし、中身を盗み見ることは勿論、怪メールを送ることまで可能という優れもので、それを駆使して犯人の特定から懲らしめまでを一挙に行い締め上げることになる。

他にも、『赤目の鳥』であればドローンのように空から学園中を見渡して監視することができたり、『十三階段』であれば指定の階に閉じ込めることができたり、『霊界の吐息』は対象者を気絶させたり……割と使い勝手が良い七不思議達の力を駆使していく。

 

この作品は一見すると繋がりのない事件や、意識していなかった情報が、後から繋がっていく構成を魅力としてあげたい。想像だにしない角度からパンチを食らいながら、最後には綺麗に締めていく。

先ほど説明した春に起きた怪メール事件。そこで中崎くんは朝倉さんを救った訳だが、どのように救ったのかは説明する訳にはいかない。「自分は七不思議の一つで、他の七不思議の力を借りたんです!」と力説したところで納得できるはずもないであろう。

しかし彼女の中には、彼に救われたのではという疑念は残り続ける。その疑念がつもりにつもっていくと同時に、彼の彼女に対する想いも変化していく。このラブロマンスのせめぎ合いに、七不思議というアクセントが加わっている訳だ。

ラスト、それぞれが抱えていた想いや過去から卒業していくシーンはとても美しかった。

【前:な し】【第一巻】【次:な し】

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件3 感想

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

※ネタバレをしないように書いています。

駄目人間ですが何か?

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作者:佐伯さん

イラスト:和武はざの

試し読み:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 3

ざっくりあらすじ

マンションで一人暮らしする藤宮周の隣には、学校で天使様と呼ばれる学校一の美少女・椎名真昼が住んでいる。恋心を自覚した周は、その気持ちを隠しつつ、学校でも極力関わらないようにしていたが――。

感想などなど

第二巻のラストは、もはや付き合い始めを通り越した何かになった気がする。

天使様こと椎名真昼の抱えた過去は、両親に無視され続け、挙げ句の果てにマンションに一人暮らしというものだった。子供は親の背中を見て育つというが、よくぞ真昼はここまでまっとうに育ってくれたものだと思う。実の娘を蔑んだ目で見る母親のシーンは、なかなかにショッキングだった。

そんな彼女の心の隙間を埋めるように、肩を支えてあげる藤宮周。彼女が一番辛いとき、涙が止まるまでずっと、一番そばに居て支えてあげたというこの事実が重要である。

藤宮に対し、真昼はさらけ出せるものはすべて出したのではないだろうか。

それでも、お付き合いはしていないというのだから、もう訳が分からない。第三巻のあらすじをまとめると、ただひたすらにイチャイチャするに尽きる。デートにデートを重ね、猫カフェにいったり、ゲーセンにいったりとカップルとしか思えない光景が繰り返され、それでも「付き合ってない」と宣う。

周の友人・赤沢樹と白河千歳のカップルは、さっさとダブルデートしてしまえよ……ということを思った読者も多いことだろう。

そんな第三巻、時折はさまれるのは、藤宮周という人間の抱える心の闇だ。恐ろしいまでに低い自己評価。椎名真昼に対する恋心を明確に自覚しながら、学校では彼女と話すことを拒む姿勢。

次に全てをさらけ出すのは、藤宮周である。

 

第三巻で注目したいのは、超絶モテる椎名真昼という人間の周囲からの扱いと、藤宮周の過去である。

藤宮周の過去については、第三巻の最後の最後、物語における肝といっていい。語りたいのはやまやまだが、ネタバレになるので、第四巻の記事にて赤裸々に語っていこう。そちらを参照して欲しい。

さて、超絶モテる椎名真昼という人間の周囲からの扱いについて。

天使様という渾名がついた椎名真昼の扱いは、第一巻、第二巻と読んでいなくとも何となく想像できるのではないだろうか。才色兼備、運動神経抜群、成績優秀、性格も良い……完璧超人と呼ぶべき女子高生である。

彼女に対する憧れが、そういった天使様扱いを生み出したのだろう。高嶺の花だと分かっていながら、告白の数は絶えず、それらの全てを振っている。第三巻でも、モブに告白される椎名真昼の様子が描かれている。

その告白が彼女の日常だとすれば、彼女に同情せざるを得ない。

彼女に告白をしたモブは、そもそも彼女とは一言も言葉を交わしたことがないという。まぁ、会話したことがなくても恋心を抱くということはあるだろう。そして、そんな彼の告白を拒否する権利は言わずもがな椎名真昼にはある。手慣れた拒絶であった。

そうして否定された男は、椎名真昼に対して暴力に打って出た。もしもその近くを周が通りかからなかったらどうなっていたか。あまり想像はしたくない。

 

この第三巻から椎名真昼は本気で周をおとそうとしてくる。いや、もうとっくに彼はおちているのだが、これまで通りの関係性ではなく、もっと深い関係性を望んでの行動が目立ってくる。

これは椎名真昼をヒロインとした物語ではなく、藤宮周を攻略する物語なのではないか。彼を攻略するには椎名真昼のような行動を取らなければならないとなると、攻略何度はプレイヤーがコントローラーを投げ出すレベルなのではないかと思う。

どうか椎名真昼には頑張って貰いたい。彼女の涙ぐましい努力が垣間見える第三巻であった。

【前:第二巻】【第一巻】【次:第四巻

悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました5 感想

【前:第四巻】【第一巻】【次:第六巻

※ネタバレをしないように書いています。

ラスボス飼ってみた

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作者:永瀬さらさ

イラスト:紫真依

試し読み:悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました 5

ざっくりあらすじ

魔の神を名乗るクロードそっくりの美形・ルシェルが、魔界からやって来た。彼の目的は、息子である魔王・クロードを魔界へ連れ帰ることなのだという。アイリーンは必死に抵抗する中、ハウゼル女王国の女王選抜試験の内容が『魔王と愛を育むこと』だと発表され、女王候補が魔王の城へとやって来ることに――。

感想などなど

魔王・クロードにも聖王・バアルなる対等な悪友ができ、随分と楽しい日々を過ごした第四巻。しかしクロードの周辺に漂う不穏な影は変わらずちらつき続け、この第五巻では現在よりも700年前を舞台とした、『聖と魔と乙女のレガリア4 ~聖なる女王と運命の乙女~』のフラグが押し寄せてくる内容となっている。

その第一フラグとして、『聖と魔と乙女のレガリア4』におけるヒーロー兼ラスボスであり、魔王クロードの父・ルシェルが、魔王城に訪れた。彼曰く、魔王クロードは魔界にいるべきであるらしい。

その理由は魔界にいるとされる魔王の本体が、自身の妻であった女性と同じ魂を持つ女性を、運命の相手として好きになり幸せになるようにと、クロードに迫って来ており、それを拒んでアイリーンと愛を育もうとすることに対して怒り、クロードを魔物に変えてしまおうとしているらしい。

クロードの魔力の不調は、魔王の怒りを買っているからだろうと推測される。魔王の持つ膨大な魔力は、魔界の本体から供給されているという仕組みであるが故、そういったことが起きてしまうようだ。なるほど、分かりやすい。

魔物になってしまえば、人々のいるこの世界で正気を保っていることはできない。魔王・クロードは魔界にいるべきというのは、クロードのこと、世界のことを思えば正しいことかもしれない。

しかしアイリーンは諦めない。何故なら彼女は聖剣を持っているから。

かつての『聖と魔と乙女のレガリア4』でも聖剣の力やら、愛やらの力をどうにかこうにかして解決した王道ストーリー。それを辿れば良いのではというアイリーンの計画は、ルシェルによって一蹴される。

本来、アイリーンは聖剣の持ち主ではない。そのため彼女の持っている聖剣は正しい姿に非ず。昔の言葉でいうなれば、魔剣と呼ぶものらしい。その魔剣ではクロードを救うには力不足。

アイリーンの当面の目標は決まった。正しい聖剣としての姿を取り戻そう……そんな矢先に事件は矢継ぎ早に起こる。

 

永世中立国・ハウゼル女王国の女王は、選抜試験を乗り越えた者に与えられる実力主義の国家であり、その選抜試験の内容は各国の注目を集める。今回の試験の内容は、なんと『魔王と愛を育むこと』というものであった。

愛を育む……要は愛妾となって子を産めという内容だ。女王になるために他国の王の愛妾になるという意味不明な試験だが、女王候補者達は本気でクロードの貞操を狙ってくる。寝込みを襲う、風呂場に強襲、アイリーンの振りをして忍び寄る……その有様はあまりに酷い。クロードがこれほどまでに弱り切ったことがあっただろうか……いや、意外にあったか。

実はこの展開は『聖と魔と乙女のレガリア4』と同じ。つまり700年前と同じ光景が繰り返されている。かつて想いを果たすことができなかった魔王の本体が、クロードに愛を育ませようと迫る運命の相手にして、ゲームにおけるヒロインもまた、女王候補生の中に紛れ込んでいる。

魔王の本体が仕組んだ運命の相手と結ばれるしかないのだろうか。アイリーンは本物の聖剣の力を手に入れることができるのか。様々な情報が交錯する中、次々と起こる想定外な事件の数々。

例えば。

聖王バアルが治めるアシュメイル国にいる神の娘・サーラが攫われた。いつも余裕な表情だったリリアですら驚きを隠せない事件である。そこからさらにアイリーンも行方をくらませ、クロードは女王候補生の一人と結婚式を挙げ……一つの事件を皮切りに至るところで状況は目まぐるしく変わり、それぞれの思惑が交錯していく。

それら全てが繋がって、最後に描かれるエンディングが美しい第五巻。読んでいて楽しい、推しが増えていくストーリーであった。

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転生したら剣でした12 感想

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※ネタバレをしないように書いています。

剣として生きていく

情報

作者:棚架ユウ

イラスト:るろを

試し読み:転生したら剣でした 12

ざっくりあらすじ

街の人々に取り憑いて暴れ回った神剣ファナティクスの刀身を破壊したが、残されたファナティクスの欠片がベルメリアを暴走させてしまう。国王のいる王城へと向けて、破壊の限りを尽くす彼女を止められる者はいるのか?

感想などなど

背中に剣が突き刺さった人間が、街を破壊して回るという新手のホラーだった第十一巻。強者達が死んでいく様の絶望感は、なかなか味わえるものではない。

同族喰いというスキルにより、敵を倒す度に師匠が強化されていくという描写が、敵も神剣であるということを教えてくれるということを教えてくれる。今回の敵は神剣ファナティクス……既に失われたとされていた神剣であるが、どうやら残っていたようだ。

その刀身はボロボロであったが、復活しようという剣の意思が、今回の騒動を引き起こし、一国を滅ぼそうというギリギリまで迫った。その戦いの苛烈さは、第十一巻とは比較にならない。

なにせ後半のフランは寝ていただけである。強くなったとはいえ、フランには付いていけないレベルの戦闘が繰り広げられたことを意味している。フラン以上に強い者達の多くが死に、多くが命を削った戦場……生き残ったフランは「強くなりたい」と最後に口にする。

この戦場で死んでいった者達くらい強くなるには、どれほどの鍛錬を積み、レベルを上げる必要があるのか。色々と考えさせられる第十二巻の感想を語っていきたい。

 

神剣ファナティクスを倒したところで終わった第十一巻……とはいえ実際は倒し切れていないし、ベルメリアは行方不明という冒頭。とりあえず当初の目的であったガルスの捜索を始めることにしたフランは、ギルドマスター・エリアンテの紹介で盗賊ギルドへと向かう。

この盗賊ギルドとのファーストコンタクトが最低なのだ。

フランを出迎えたのは、はげ頭の武闘派盗賊・フィストに、結婚詐欺師のネオスト。毒物の扱いに長けた娼婦・ピンク。フランを一目見て、冷や汗をかいているフィストは、彼女の実力を正確に計っているために大人しい。しかし、ネオストにピンクは、フランという小娘のことを完全に舐めてかかっている。

実際、フランの手にかかれば全員が瞬殺なのだが、そんなこと分からないネオストの女を落とすテクニックとスキルが発動し、何をされているか分からないフランは顔をしかめる。師匠とフィストと共に、ハラハラとした空気を眺めるしかない読者。

そんな盗賊ギルドからの交渉(?)を経て、ガルスや敵の情報をもらいつつ、ついでに盗賊ギルドの最高戦力・エイワースの協力を得られることとなった。このエイワースは73歳という老齢でありながら、最前線に立って戦える実力者だ。

はっきり言ってフランよりも遙かに強い。

敵である神剣ファナティクスに使役された者は、魔術を打ち消すスキルを使ってくる。フランは剣を使えるためある程度戦えたが、エイワースは魔法使い。相性は最悪であるにも関わらず、その戦闘を楽しんでいるようであった。

人体実験を趣味としている倫理観が終わっていること以外は、頼りになる最高のじいさんなのだが……この戦況を左右するのは、このじいさんに委ねられているのだから怖い。

 

最初に書いた通り、フランは後半のほとんどを眠っている。何故眠ってしまったかは読んで確認してもらうとして、主人公不在の後半を読めば分かる。彼女がここにいたら死んでいた……と。

これまで厳しい戦場はいくらでもあった。それを乗り越えてきたのだから、今回も余裕だという楽観は通用しない。戦いを止めるために、単身で最前線へと向かった師匠が見た光景は、多くの人が行き交う王国の姿は残っていなかった。

その惨状を、師匠は何とかすることができるのか。

そしてフランの伸び代に期待するしかないこれからの展開に、期待してしまう第十二巻であった。

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